アニマル泉

忘れられた人々のアニマル泉のレビュー・感想・評価

忘れられた人々(1950年製作の映画)
4.5
ブニュエルがメキシコシティの貧困と少年犯罪をリアリズムで描き、メキシコでは物議を醸したが、カンヌ映画祭で監督賞を受賞した事でヒット作になり、メキシコ時代のブニュエルが再評価されたというスキャンダラスな作品。
それぞれのキャラクターが容赦ないのがブニュエルらしい。どうしようもない不良のハイボ(ロベルト・コボ)純真なのに報われないペドロ(アルフォンソ・メヒア)帰ってこない父親を待ち続けるオヒトス(マリオ・ラミレス)ペドロを愛さない母(エステラ・インダ)は欲情のままにハイボと関係を持ち、盲目の大道芸人カルメロ(ミゲル・インクラン)もメーチェ(アルマ・デリア・フエンテス)の足を触る好色、そのメーチェも最後はペドロの遺体を捨てるのに加担する。誰も誠実な者はおらず、欲望のままに動物的に行動する。
ブニュエルの「足」への偏愛も反復される。ペドロの母が足を洗う、メーチェが美容のためにミルクで足を洗う、盲人のカルメロがメーチェのスカートをたくしあげて太腿を触ろうとする、足がない身障者を少年グループが襲う場面も挑戦的だ。
ブニュエルの作品で悪者は徹底的に悪い、反省しない。本作ではハイボなのだが救いがたいワルだ。そのハイボの最後の場面、ハイボが隠れ家に戻り、待ち受けていた警官に射殺されるのをブニュエルはロングショットのワンカットで見せる。本作の白眉のショットである。一方で善良な人物はブニュエルの作品では壊れてしまい暴力に走る。本作ではペドロなのだが、ペドロは自分をコントロール出来なくなって鶏をひたすら撲殺する。今までの人格が真逆になってしまう。この場面はペドロが撮影カメラに卵を投げつけるという予想外の戦慄のショットがある。四方田犬彦が指摘しているように、ゴダールのように作品の枠を超えて直接観客にぶつけてくる危険なショットだ。暗黙の制度を壊すシュールレアリストのブニュエルらしい挑発だ。
鶏が本作では重要なモチーフになっている。これも四方田犬彦の指摘どおり、新約聖書でペドロが鶏が鳴く前にイエスを三度否認するという逸話が本作の底流になっている。背中を鳩で撫でる療法も初めて見たが印象的だ。
ラストカットで崖から捨てられたペドロの遺体が転げ落ちていくのはブレッソンの「少女ムシェット」のラストカットを思い出した。
白黒スタンダード。
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