針

忘れられた人々の針のレビュー・感想・評価

忘れられた人々(1950年製作の映画)
4.1
メキシコシティに暮らす少年たちが、貧しさゆえに悪事、もとい犯罪に走っていく様子を描いた中編。
物語はハイボという少年院を逃げ出したボス的な少年と、彼の友達のペドロという小柄な少年を中心に展開されます。

肝心のストーリーはまー、良い意味でひどすぎる。環境の酷さによって道を踏み外していく少年たちをこれでもかというぐらい容赦なく描いていて、楽しむどころか終始いたたまれない気持ちになるのですが、その徹底具合がすばらしい。正直自分はかなり好き……。

登場する大人たちが、こう言っては失礼だけど大概ろくでなしばかりで、彼ら彼女らにも事情はあるんだけど思わず腹が立ってしまう。盲人の楽士はあーあな感じだし、ペドロの母親はあまりに弱くてあまりに遅い……。終盤のおじいさんは愚かすぎる……。

幼いころから働くことを求められてしまう子どもたちの現実も、それが現に存在するのは知っててもこれは観ていてすごく胸に来る映画でした……。

自分はハイボに押さえつけられてなかなか真っ直ぐな道を歩めないペドロに思わず感情移入し、応援しながら観てしまいました。こういうところは自分の子ども時代を思い出させられて余計にイヤ……
でもそれと同時に、シーンによっては彼らに全然共感できないところも多々あり。また、子どもが不良になっても最終的には誰も責任取っちゃくれないよねーという、ちょっと冷めた気持ちにもなりましたね。そのへん、対象に対して同情しつつも突き放しつつというブニュエルの描き方はやっぱり好ましい……

映像的には、ペドロの見るスローモーションの悪夢のシーンと、後半の「卵」のシーンには思わず息を呑みました。終盤で登場人物の上に走る犬の映像を重ね合わせてるシーン(オーバーラップっていうんだっけ?)とかもシュルレアリスティックでいい感じ。

個人的には、非常に切り詰められた濃密な映画でよかったなーと思いました。


ちなみに冒頭で、「この映画は事実に基づき登場人物も実在する」という、現実に取材したフィクションでよくある逃げ口上の逆の字幕が流れるのですが、これって多分嘘なんじゃないのかなー。モデルぐらいはいるかもしれないけど、フィクショナルなストーリーから観客自身に進んで“現実”を読み取ってもらうための一手という気がするのですが……。
さらにそのあとには「これは事実を見せるために楽観的な視点を排して作っている」という言葉が続き、そんでもって内容がこのつらさなので観る側にも否応なく子どもの生育環境の問題を突きつけてきます。……逆にいえば、誰もが否定しえない現実の環境の酷さというものを掲げることで、これだけ徹底して容赦のないストーリーを展開し成立させるための地盤作りをしてるともいえるのかなーと。

あとは時代も国も全然違うから単なるこじつけだけど、自分は観ながら『シティ・オブ・ゴッド』を思い出したりしました。この映画に描かれてるのは銃もカメラも掴むことのできない活劇とは無縁の少年群像なんだなーと思うと余計にかなしかったり……。
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