半兵衛

地図のない町の半兵衛のレビュー・感想・評価

地図のない町(1960年製作の映画)
3.6
ドヤ街を牛耳る悪党と蹂躙される庶民という図式を徹底的なリアリズムで描いた社会派映画ではあるが、中平康監督らしい洗練されたテクニカルな演出や日活が誇る超一流スタッフによる洗練された技術が映画的な興奮を生んでいくという不思議な一作。特に冒頭で何処かへ向かって歩く主人公を通して街の状況をつぶさに映像で説明するという映画ならではの快感に唸らされる。

脚本を担当した橋本忍の『切腹』を彷彿とさせる時系列を敢えて乱して興味をひかせる語り口も随時で冴えており、また後半では予想外のどんでん返しで浅はかな展開を予想する観客を裏切る嬉しいサプライズも。

それでも巨悪とその周辺に救う奴らが活躍する救いようのないストーリーがこれでもかと繰り広げられるのが少ししんどくなるのも事実で、それに加えて肝心の主人公である葉山良二のキャラクターが潔癖すぎて共感しづらいので今一つのめり込めない印象に。

ただそれでも庶民のために奔走するヒューマニズムな医者の宇野重吉、諸悪の根元であるボスの滝沢修(取り巻きに安部徹がいるのも良い塩梅)、その日暮らしの庶民を演じる小沢昭一や浜村純、生活のために滝沢の妾になる南田洋子などといった名優たちの演技は素晴らしいし、先にも書いた通り衝撃的なことが次々と起こる終盤の展開に引き込まれるのでトータルとしては見ごたえのある作品に仕上がっている。

『仁義なき戦い』を先取りしたような葬式場でのラストも◎。

ちなみに日活の公式サイトで映画のロケ地情報を見ると、本当のドヤ街で撮影されていたらしい。しかも問題が発生して途中でロケ場所を変更することになったとか、この時代は土地を仕切るヤクザなどに許可を取らなければならなかったので色々と大変だったのだろうなとその苦労を想像してしまった。
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