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サインのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

サイン(2002年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

元牧師のグラハムは、半年前に妻を不幸な事故で亡くしてから一切の信仰を捨てた。今は幼い子ども2人と、マイナーリーグのスター選手だった弟メリルと暮らしている。ある日、彼のトウモロコシ畑にミステリーサークルが出現したことをきっかけに、不可解な出来事が次々に起こりはじめる…。

劇場公開時以来の再鑑賞。
当たり外れが大きいとか、巷では賛否両論のあるM・ナイト・シャマラン監督作品。
賛否両論が起こるということは、それなりに語り合いたくなる謎や設定がある証拠。
本作はシャマラン版「未知との遭遇」とも言うべきSFサスペンスだが、舞台は田舎の一軒家を出ず、物語はそこに住む家族に終始する。
地球の存亡を賭けた宇宙人との戦いに飽き飽きしているSFファンには新鮮に感じるはず。
地味ではあるが、庶民的なところが共感を呼ぶ佳作であると個人的には思っている。

突然、畑に現れたミステリーサークル。
TVでは世界中で宇宙船の飛来を報道している。
田舎に住むグラハム一家は近くに降り立ったであろう宇宙人の存在に恐れ慄く…というだけの話なのだが、世界の存亡には一切目を向けず、あくまで田舎に暮らす普通の一家が突如訪れた危機にどう反応するのかを描いていく。

情報源はテレビとラジオだけ。
国がどう対応しているのか?
世界でどんなパニックは起きているのか?
一家は事態がどれだけ深刻かすら良くわからない。
これが妙にリアルで不安を煽る。

背の高いトウモロコシ越しにチラッと宇宙人の脚が見えたり、赤ん坊用トランシーバーに宇宙人の通信が入ってきたり、TVで宇宙人が映ったホームビデオ映像が公開されたりと、ジワジワと日常生活が脅かされていく恐怖が伝わってくる。

「宇宙人の侵略」が描かれてはいるが、人類対宇宙人ではなく、あくまである一家から見た視点で描かれている。
その過程で「信仰心」や「家族の絆」という本当のテーマが浮き彫りになっていく。

本作の主人公グラハムは、一家の主人でありながらも、過去に交通事故で妻を亡くした辛い経験から心に深い傷を負ってしまい「神などいない」と信仰を無くした神父。

それまでアクションスターだったメル・ギブソンが傷ついた男グラハムを繊細に熱演。
「マッドマックス」や「リーサルウェポン」シリーズでも妻を失った男を演じて来たが、狂気を讃えていた瞳が本作では一瞬で哀しみに染まる。
アップでの目の表情ひとつで感情の移り変わりや無力さを表現する演技は本作の見どころの一つだ。

信仰を失った元神父が、もう二度と家族を失いたくないと奮闘する。
遂に宇宙人がグラハム宅に押し入り、息子モーガンを連れ去ろうとした時、見る者はタイトルの「サイン」の本当の意味を知る。

グラハムの妻は、交通事故で死亡する寸前、グラハムに最後の言葉として「See(見て)」と「Thing away(打って)」と言い残す。
走馬灯の中でマイナーリーグで活躍した弟メリルの試合を見た記憶が蘇ったものだと思われたが、妻の最後の言葉は、宇宙人の攻撃から息子を守るために神が託したお告げ(サイン)ではないか?とグラハムは気付く。

即ちそれは、「宇宙人を見て、バットで打て」というメッセージ。
何とも直接的で暴力的なお告げで笑えてしまうのだが。
本当に神の言葉か?と疑いたくなるが、「神が人間を守ったのだ」と捉えよう。
メリルとグラハムはその言葉に従い、宇宙人をバットでぶん殴って退治する。

モーガンは喘息によって呼吸停止していたため、宇宙人の発する毒ガスを吸わずに済み、一命をとりとめる。
モーガンが喘息であったことも「神のサインだったのだ」とグラハムは理解する。

映画の前半部で、ミステリー・サークルの出現が、「宇宙人のサイン」ではないか、という謎かけとして登場するが、実はそれはミスリード。

「sign」とは、「前兆、印、徴候」あるいは「お告げ、奇跡」という意味。
前半では、「sign」は宇宙人侵略の前兆のように見せておいて、最後は妻の言葉の「sign」が「神のお告げ」であり、モーガンの復活が「神の奇跡」になる。
「神のサイン」に気付いたグラハムは、神が自分たちを守ってくれていたことに気付いて家族を守り抜き、神への信仰を回復するハッピーエンドだ。

宇宙人が弱すぎるとか、水が弱点なのに地球のような水の惑星に何で侵略してきたのか?などツッコミどころは多い。
派手な宇宙人撃退のカタルシスを期待した人々が「これじゃない」と低い評価を下すのも頷ける。
しかし、張り巡らされた伏線が綺麗に回収されるクライマックスは見事だ。

劇中で、グラハムが弟メリルに「お前は神のサインや奇跡を信じる人間か?、ただ運が良いと考える人間か?」と聞く。

本作のテーマは、現代の社会は破滅の危機を迎えているが、その「前兆」はいたるところに現れているから、そのサインに気付きなさいということだろう。

今にして思えば、911テロ直後に製作された映画。
宇宙人の飛来はタリバンによる911テロの隠喩か?
宗教的な語り口も、単純な暴力での解決もそれらを感じてしまう。
意思疎通が出来ない相手への恐怖だ。
主人公が家族を亡くし、そして残された家族と絆を取り戻すというストーリーも、何かこの時代を象徴していると感じずにいられない。

能天気な宇宙人とのドンパチが描かれるよりは、不安と脅威に晒される人間の心理が描かれていて、よっぽど良いのである。
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