岸田森という俳優は、何とも不思議な魅力のある人でした。女優・岸田今日子の従姉弟で、樹木希林(悠木千帆)の最初の夫としても知られていますが、最も印象的なのは円谷プロの「怪奇大作戦」でしょうか、冷静な科学者でありながら、内に熱い情熱を秘めた牧史郎は子供心にたいそう恰好良く映ったものでした。実相寺昭雄、岡本喜八、両監督作品の常連であり、そうかと思えば「傷だらけの天使」では、萩原健一が演じる主人公の修を苛める辰巳五郎役を喜々として演じていたり、松田優作から慕われ「探偵物語」にゲスト出演したこともありました。
そんな岸田森の最大の当たり役といえば本作をおいて他にないでしょう。当時、世界中でヒットしていたハマー・プロの「吸血鬼ドラキュラ」シリーズを日本に置き換えて制作された「血を吸うシリーズ」の２作目。もちろん、岸田森が演じたのは“吸血鬼”です。今までも、そして、これからも、岸田森を超える吸血鬼俳優は日本には現れないでしょう。優雅で美しく、それでいて激しさと狂気を内に秘めた暗黒の貴公子。本家のクリストファー・リーに勝るとも劣らない岸田森の吸血鬼は海外でも評価が高く、本作は“Lake of Dracula”のタイトルで多くのファンに愛されています。
わずか43歳の若さで癌のために亡くなった岸田森が遺した格調ある吸血鬼映画、一度観てみては如何でしょうか。
