シズヲ

パッチ・アダムス トゥルー・ストーリーのシズヲのレビュー・感想・評価

3.6
既存の医療体制に一石を投じ、愛とユーモアによって人々を癒やした実在の医師を基にした伝記映画。患者をケアするホスピタルクラウンという概念の開祖であり、また医療費の自己負担が大きいアメリカにおいて無料サービスの病院を設立するなど、パッチ・アダムスという人物の偉業には感嘆させられる。

ロビン・ウィリアムズがこういう役柄をやっている時点で話の内容は何となく察せるけど、実際そういう感じのヒューマンドラマである。“死を遠ざけるのではなく生の充実を”という信念の下に患者を笑顔にしていくパッチの姿は、ロビンのユーモラスな演技も相俟って幸福感に満ちている。ロビンの表情や台詞から滲み出る機敏がとても良いし、ピエロに扮したパッチの戯けた振る舞いで患者の子供達が笑顔になるシーンはやっぱりとても愛おしい。笑いと愛による行動で硬直した現場を変革していく様からは一種の反権威性も感じられて印象深い。実際に教授は保守的なパワーの象徴として描かれ、更にアメリカの医療体制の欠陥が民間人を通して触れられるなど、パッチのカウンターぶりはそういった面からも強調されている。

ただ、実話モチーフとして見ると流石にロビン・ウィリアムズのキャラが強すぎる。彼自身のユーモアが先行しすぎているせいで良くも悪くも単純なヒューマニズムに落とし込まれてて、それ故にパッチ・アダムスという実在の人物の革新性についても抽象的になっていた感が否めない。話の展開や演出もまぁ“良い話”的で分かりやすくて、全体を通してご都合的なテンポを重視している印象。当時の医療体制の欠陥もそこまで深く掘り下げられていないので、主人公が単に強引で無配慮なだけに見えてしまう場面が度々あるのは厳しい。そんな訳で綿密な伝記として見るよりは、ロビンの魅力を主軸にしたヒューマンドラマとして見た方が咀嚼しやすい。

ロビン・ウィリアムズの主演作品は必ずしもツボに入る訳ではないけど、それはそうとロビン・ウィリアムズという役者は凄く好きである。笑いの根幹に一種の哀愁が宿っているからこそ引き込まれてしまう。ユーモアとペーソスの共存はヒューマニズムの極地だし、それを体現できるのは紛れもなく良い役者なのだなあ(だから贔屓目に見てしまうフシもある)。そもそもパッチは精神病棟の任意患者から始まっていたり(父親絡みの悲哀も示唆されている)、また苦い形での“死との直面”に試される下りがあったりと、主人公の道程からしてロビンが演じるのも納得してしまう。
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