LilyK

トム・ジョーンズの華麗な冒険のLilyKのレビュー・感想・評価

4.6
この混沌こそまさにTom Jones、と思わせる一作。
あの電話帳サイズの小説をどうやって映画の尺内に収めたのか?とか、え、これがオスカーの作品賞を受賞しているの?とか、そのわりにこの映画を鑑賞する方法がなさ過ぎない?とか、色々と気になることのあった本作、ようやく鑑賞!なんだか、人生の目標を一つ達成したような気分。ものすごく評価が高く、リリース時にも人気があって、後世に語り継がれるほどの作品なのにアクセスしづらい。それこそが、Tom Jonesらしさなのかもしれない。サマセット・モームの十大小説に挙げられながらも翻訳もほとんど出ておらず、原書も時折完売している、そんな小説を原作としているわけなのだから。
冒頭から白黒のコミカルな無音映画風に始まり、映画の中ではコロコロと演出が変わり様々なジャンルの映画を模倣するようなスタイルを取っていた点には感動した。小説では章や巻ごとに語り口や言い回しが変わっていて、既存のジャンルや作品のパロディとなっており、それを映画流に表現するのはさすがだと思った。
物語は原作と比べるとかなり端折っているものの、小説の特徴である劇作家のフィールディングらしい生き生きとした台詞周りやスピード感が上手く表現されていたようには思う。ただ、Tomの移動と物語の盛り上がりの連動性が今ひとつ伝わりづらかったので、その部分では原作の持ち味を落としてしまっている感は否めなかった。
勿論、小説と映画は別物だし、あの長い古い作品を忠実に映像化するには映画一作では絶対に不可能だけれども、Tom Jonesのエッセンスを非常に上手く抽出してまとめ上げており、オスカーの作品賞を取ったのは非常に納得の結果なのでは無いだろうか。
しかし、今見返してみても、黒髪でも大人しくもないヒロインSophiaは他の作品のヒロインとは違う魅力を放っていて、現在でもユニークなキャラクターであることに驚く。ヒーローを追いかけておいて、途中で追い抜かしてしまうヒロイン、なかなかいないよなぁ…。
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