三隅炎雄

博徒仁義 盃の三隅炎雄のネタバレレビュー・内容・結末

博徒仁義 盃(1970年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

菅原文太・若山富三郎共演の異色着流し任侠映画。軍部の御用達でいろいろ儲けようとヤクザたちが集って愛国団体を結成、何かと物入りになるのを吉原の遊郭から搾り取って補おうとする。戦争と女たちの搾取がひと続きなのを簡潔に描いている。

軍部とつるむヤクザたちに異議を唱えるのが昔気質の侠客文太。驚くことに若山富三郎は吉原の教会に派遣されてきた元極道の牧師だ。やむなく暴力をふるい十字を切って悔い改める掴みこそ滑稽だが、彼には重く背負った暗い過去がある。その若山が真摯に遊女相手に信仰と人権を説くので、やくざや廓にとって邪魔な存在となって、そこから大きな悲劇へ繋がっていく。最下層の貧しい人弱い人が死んでいく。キリストに盃を返し信仰を捨てて、殴り込みに向かう若山。共に地獄へと文太が並ぶ。
この映画、全体に登場人物たちのちょっとした所作、佇まいが美しい。それを端正に収めた画面の力にまず引き込まれる。文太と遊女武原英子の悲恋の細やかな情感はどうだろう。待田京介と伊吹吾郎の死の場面は、男同士の絆を唸り喘ぐように歌い上げて、やくざ映画ならではの倒錯美で凄みがある。

最後、焼け野原に若山が撒いた信仰と愛の種の芽が顔を出す。
若山『日本悪人伝』、梅宮辰夫『遊侠三代』、志穂美悦子『二代目はクリスチャン』と組んで上映してみたら面白い。終始こころのこもった演出で、これは佐伯清の代表作のひとつであろう。
三隅炎雄

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