ベビーパウダー山崎

危険なめぐり逢いのベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

危険なめぐり逢い(1975年製作の映画)
3.5
ルネ・クレマン晩年の四本はすべて「唐突に平凡な日常が揺れ、犯罪に巻き込まれる」サスペンス映画。ルネ・クレマン最後の映画。売れない役者のシドニー・ロームとベビーシッターのバイトをしている彫刻家のマリア・シュナイダー、事故で「偶然」出会った二人、ロームは金持ちのオッサンに裏切られた過去があり、シュナイダーには冴えない恋人がいる、この二つの軸で物語が走りだし誘拐事件が映画の中心。
同居しているロームとシュナイダーの関係性がほとんど語られず誘拐のくだりに雪崩れ込むので、物語を掴めず困惑するのも当然。最低限のヒントしか与えずに騙し絵のような構成、キャラクターは少ないのに映画をかなり複雑にしている。誘拐された子供と巻き込まれたシュナイダーが過酷な状況で心を通わしていくドラマと誘拐犯グループのどん詰まり感、ただ利用されただけだったロームの深い哀しみ、どれもそこまで描き切れていないが、物語が進むにつれそれぞれのキャラクターの目的が見えてくるルネ・クレマンの歪さを理解していれば楽しめると思う。
冒頭の車との事故、老婆の殺害、冷蔵庫に犬の死体、ボコボコに殴られて髪まで切られるシュナイダー、車の爆破、風呂場での自殺。名のある作家が老い、表現者として限界を感じながらも絞り出した作品はグロテスクな輝きがある。傷だらけのシュナイダーが終盤に呟く「みんな死んだよ…」。ルネ・クレマン晩年の四本だと本作が最も地味で冷たく寂しい。だからこそ偏愛したくなる一本。