酢

危険なめぐり逢いの酢のレビュー・感想・評価

危険なめぐり逢い(1975年製作の映画)
4.0
燻んだ灰色の結晶体のような映画で大好き🩶🤍誰が何を考えていて物語がどこに向かって動いているのかよくわからない宙吊り状態がデフォルトの後期ルネ・クレマン節がまず私の好物なのだけど、更にひと段階上のレベルに歩みを進めたヤバさがビンビンに漂っていた。特徴的だった幻惑的な美意識はかなり削ぎ落とされていて、代わりに一見超素っ気ない画面の中に時折ギョッとする残酷さとか生々しい諦念が顔を覗かせる。誰もが誰かに利用されて、みんな何も手にすることなく死んでいく。利用されっぱなしのシドニー・ローム。しかし裏で糸を引く黒幕さえも呆気なく破滅する。事件から生還したマリア・シュナイダーは虚ろな顔で無人の朝のアトリエに寝転ぶ。何も残らなかった。何かを失った。日常には帰ってこれたのだろうか。でも変わってしまった、何かが。そこへ事件前は関係がすれ違いがちだった彼氏が訪れようとする寸前で物語は幕を閉じる。ウサギに誘われるがままに始まり、最後には平穏な日々への帰還が暗示される。過去作と同様にルイス・キャロルの陰がチラリ。
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