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続・激突!/カージャックのYYamadaのレビュー・感想・評価

続・激突!/カージャック(1974年製作の映画)
3.4
【監督スティーブン・スピルバーグ】
第2回監督作品
◆ジャンル:  
 実録人間ドラマ、ロードムービー
◆主な受賞歴
 第27回カンヌ国際映画祭脚本賞

〈見処〉
①スピルバーグ初の「劇場向け」監督作
・『続・激突!/カージャック』(原題: The Sugarland Express)は1974年にスピルバーグ初の劇場公開を目的に製作された監督作品。
・舞台は米国テキサス州。窃盗の犯罪履歴があるルー・ジーン・ポプリン(ゴールディ・ホーン)は出所後、軽犯罪でテキサス州立刑務所に収監中の夫クロヴィスに面会。福祉局により強制的にテキサス州の小さな街シュガーランドへ里子に出された息子の奪還のため、クロヴィスに刑務所脱走を先導し、囚人仲間の車をカージャック。
・しかしながら、逃走中に些細な交通違反を起こしパトカーに呼び止められてたルー・ジーンは、パトカーを奪い取り、スライド巡査を人質にシュガーランドを目指す。
・三人の乗るパトカーを追って、テキサス中のパトカーが追跡。さらに騒ぎを聞きつけたマスコミが駆け付け事件を報道すると、州内の民衆は、ルー・ジーン、クロヴィス、スライドに声援を送るようになる。果たして3人はシュガーランドに到達出来るか??
・本作は1969年5月にテキサス州で発生した実話を基に製作されている。実際には夫は脱走しておらず、カージャックを決行する2週間前に刑務所を出所しているそうだ。
また、人質となった警官は映画のアドバイザーとして製作に参加し、副保安官役として出演もしている。

②時代背景とスピルバーグ27歳の演出
・製作当時27歳のスピルバーグ。1973年1月の撮影初日から、プロデュサーのリチャード・ザナックは、スピルバーグに唸らされたという。「…ほんの青二才が海千山千のクルーを大勢従え、大物女優を引き受けている。それも何か簡単なシーンからスタートするのではなく、こみ入ったシーンから手をつけ、信じられないほどうまく進行している…」
・本作が公開された70年代前半は「反体制」「退廃的」なアンチヒーローを描く「アメリカン・ニューシネマ」の全盛期。
・本作も犯罪を正当化する構成にニューシネマの影響を受けながら、万人に共感を得られる「我が子の奪還」が物語の軸となっていることに加え、スピルバーグ特有の「性善説」に則るキャラクターを「ヒーロー」として描き、必ずしもアンハッピーとは言えないラストも、ニューシネマと一線を画している。
・著名な映画評論家ポーリン・ケイルによる本作批評も「技術的安定が観客にもたらす娯楽という点から見て、これは映画史においても最も驚異的なデビュー作である」

③難産ながら、実り多い監督第2作。
・1971年11月にアメリカで放送された『激突!』の成功により、念願の「劇場用映画」の監督就任まで、あと一歩まできたスピルバーグであったが、その道は平坦ではなかった。
・1972年~73年には、2本目のTV映画『恐怖の館』『サヴェージ』を演出する傍ら「劇場用映画」の準備を並行して進める。
・うち、当時人気急上昇にあったバート・レイノルズの『白熱』(1973)の監督に内定したが、自由奔放な大物俳優を手懐けることが出来ず、製作準備から3カ月過ぎた時点で、監督を降板。
・紆余曲折を経て、最終的に残った企画が、スピルバーグが友人のバル・バーウッドと脚本化した本作。配給のユニバーサルから、大物俳優のキャスティングを条件にされたスピルバーグは、ジョン・ヴォイトにアプローチも、新人監督の作品に出ることをリスキーと考えたらしく、本作への出演を断わられる。
・最終的にユニバーサルが押す、アカデミー女優のゴールディ・ホーンが、自分の新らしい面を引き出してくれることを期待して、オファーを快諾。「予算180万ドル」「準備期間3カ月」「撮影60日」の条件で、製作のGOサインが出たそうだ。

・スピルバーグのフィルモグラフィーでは印象の低い作品であるが、彼にとって3人の運命的な出会いがあった。

◆ゴールディ・ホーン
・スピルバーグにとって、初の大物俳優。
スピルバーグ曰く「…最初の映画を撮るにあたって驚くべき女優だった。彼女は完全に協力的で、数えきれないほどの名案を出してくれた」
・また、彼女の役どころである「身だしなみに気を使わない女性」は、スピルバーグの後作にも影響を与えている。

◆ジョン・ウィリアムズ
・作曲家のジョン・ウィリアムズ、当時42歳。本作を皮切りに半世紀に渡り「スピルバーグ作品と言えば、ジョン・ウィリアムズの音楽」の蜜月関係が続く。
・また、スピルバーグがジョージ・ルーカスに紹介したことにより、ウィリアムズが『スター・ウォーズ』の音楽を手掛けることになり、監督と作曲家として互いに映画業界の第一人者の地位を築き上げた。

◆ヴィルモス・ジグモンド
・本作の撮影を担当したのは、共産圏だったハンガリーから亡命し、頭角を現していた、ヴィルモス・ジグモンド。
・彼は新人監督のスピルバーグに、登場人物の視点からカメラを覗くことを教え、撮影中は意見が衝突することもあったそうだが、のちに『未知との遭遇』(1977)で再びジグモンドを起用。同作にアカデミー撮影賞が贈られている。

③結び…本作の見処は?
○: ニューシネマ風なロード・ムービーでありつつも、スピルバーグ特有の明るさも含めた演出には好感を持てる。
○: 終盤の多数のパトカー追跡やパレードのシーンなど、B級とは言い切れない作品規模にある。
▲: モンスターも宇宙人もドラマティックな出来事もない、スピルバーグ作品としては平坦なストーリー。
×: 『激突!』の続編を思わせる邦題が酷い。本作と『激突!』は監督が同一である以外、関連性はない。
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