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さらば愛しき大地のYOU5521のレビュー・感想・評価

さらば愛しき大地(1982年製作の映画)
4.5
素晴らしい作品だった。
幾つか書きたいことがあるが
まず第一にこの映画を観たキッカケ。
水戸千波湖にかつて偕楽園レイクランドという
遊園地があった。
その跡地は現在市管理の緑地になっている。
その遊園地が映画撮影されていたということで
本作に辿り着いた。現在と対比してみたかった。
遊園地越しに見える丘陵風景が今を彷彿する。
偕楽園からの景色もある。
遊園地の単純な原色は歴史ある周りの風景に
マッチしていたのだろうか?
いまなら景観を損ねると言われそうに思う。
遊園地は伊勢甚が経営していたようで
偕楽園に座った4人の間に、今は見ない
伊勢甚デパートの手提げ紙袋が置かれていた。
撮影の条件だったのだろうか。
(この辺の検証を書いていて朝日新聞beの
連載「歴史のダイヤグラム」(原武史)を思う)
秋吉久美子がすごくよかった。
粘りのあるダルい話し方が鼻につくと
思っていたが、今見ると艶かしくて
独特の存在感がある。茨城弁も板に付いていた。
福島県いわき市の出身だからだろうか。
ちなみに磐城女高出の才女だ。
意外と秋吉に負けず魅力的だったのが
嫁役の山口美也子。今で言うなら木村多江か。
はかなげでいぶし銀、更に色気がある。
知らない女優さんだが豚小屋での濡れ場シーンを
はじめ、そこかしこで光っていた。美人。
秋吉もそうだが、山口も裸の胸が
見れるとは思っていなかった。
柔らかそうな胸だった。
根津甚八はさながら菅田将暉。
鬼気迫るものがある。
ただ当時の俳優陣の線の太さは今と全然違う。
情感が半端ない。理不尽なこと、不幸にしても
すごい包容力で迫ってくる。厚みがあるのだ。
生活とか生き様のスケールの違いを感じる。
茨城の映画関係者って誰が頭に浮かぶだろう?
名女優なら永作博美、ハイセンスなら栗原千明、
アイドル級なら白石美帆、お笑いなら渡辺直美。
男優なら亡き三浦春馬と渡辺裕之だろうか。
映画監督は深作欣二ぐらい。
それほど多くはない。
でも本作の柳町光男監督は凄かった。
以前『十九歳の地図』も観たがそれこそ
いぶし銀。時代を感じ、更に普遍的な何かがあった。
「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」
という。温故知新ともいう。
古い映画から学ぶことは多い。
柳町監督自身の出身地茨城県潮来周辺が舞台。
思い入れは強いだろう。
はじめ弟役・矢吹二朗を監督の分身のように見ていたが
次第に主人公と二人合わせてなのだと思った。
光と影、強さと弱さ、優しさと憎しみ。
どちらも内包している。だから「愛しき」なのだろう。
本作を見ていて頭に浮かんだのが映画『遠雷』。
田舎と都会。土地開発。地方に残る家、地域、生活の
しがらみ、確執、束縛。ままならなさ。
若さ、情動、清濁、欲望、諦念。
時代背景と空気。人間賛歌と不条理。
みんなひっくるめて仮借ない。
映画の醍醐味だ。
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