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のだめカンタービレ 最終楽章 後編のodyssのレビュー・感想・評価

3.0
【2つの教育方針は統合可能か】

評価が難しい映画ですね。

前編が、いろいろ問題を含みながらも、伝統はあるが諸般の事情でダメになっているオケを、コンマスとの対立や協調をへて千秋が立て直すという筋書きが一本通っていたのに比べると、やや拡散気味の印象です。

いや、結局、のだめの成長と芸術家になる決意(そして千秋と結ばれる)、ということで言えば筋は通っているんですけどね。

のだめがミルヒのはからいでいきなり協奏曲デビューを果たす。まあこれは原作でもそうなっているんですが、問題はそのあとで、音楽院でこつこつ基礎を作り上げてもう少しでコンクールに出られるだろうという教授の教育方針と、事実上無名の新人にいきなり有名オケとの共演をさせるというやり方は、本来的にはまったく正反対であるわけです。のだめは、ここで正反対の教育を両方とも受けてしまう。私が問題だというのは、その折り合いが作中でついているかどうかなんです。

共演で大成功を収めた反動でのだめは抜け殻状態になる。また、そこから、自分の人生行路そのものにも疑念を抱いてしまう。幼児と遊んで昔の自分に戻りかけたり、隣室の作曲科学生と一緒に太鼓をたたいたりして、音楽の原点に立ち戻ったり、そもそも演奏家と作曲家が分離している現代ははたしてまともなのか、という根源的な問題に行き当たったりします。ここのところ、結構大事だし、この映画のミソは実はここにあるんじゃないかと思う。

この映画は(原作もですが)カタログとしての魅力から受けているんじゃないか、という指摘は、私は前編のレビューでしました。しかしそれ以外に魅力があるとすれば、単なる音楽科学生の成功譚や交流譚ではなく、人はなぜ音楽をやるのかという問題が主役ののだめというキャラクターを通じて提出されているからではないのでしょうか。実際、この映画でも千秋の語りによって、のだめは日本で自由に音楽をやっていたときのほうが幸せだったんじゃないかと言われています。のだめは本来的に、音楽院でこつこつ基礎から積み上げて、やがてコンクールに出て賞をとって、それから・・・・というようなキャラクターとしては描かれていない。だからミルヒによる強引なデビューのさせ方には設定から言えば説得力があります。ただし、それをやった以上、音楽院の教授の教育は事実上灰燼に帰したということになる。

いや、音楽院で基礎をたたき込まれたからこそ、ミルヒとのデビューが成功したのも確かでしょう。それは映画でも、のだめがベーベと呼ばれることを卒業したところに示されています。けれども音楽院の教授がコンクールに出る出ないを制御していたのは、単なる技倆上の問題からだけではないはずです。コンクールに出るということは、音楽家としての正式の入口に立つことなのであって、そこでどう認知されるかがその演奏家の将来にも関わってくるからです。ミルヒによってそういう道筋が壊された以上、この後ののだめは演奏家デビューを果たした演奏家としてやっていくしかないのではないか。

そんなことはないだろう、という声が聞こえてきそうです。現実の音楽界でも、マウリツィオ・ポリーニはショパン・コンクールで優勝してもすぐには演奏家活動に入りませんでしたし、諏訪内晶子も、エリーザベト王妃国際コンクールで2位を取った後チャイコフスキー・コンクールで優勝しても、なお学校での勉強を続けました。私がここでのだめについて、2つの教育方針の統合が無理なのではないかというのは、一にこの作品での彼女の性格設定にかかっています。彼女はこつこつ型ではなく、むらがあるけど天才型として描かれていた。その天才性がミルヒとの共演によってはっきり表れたからには、以後はそれでいくしかないんじゃないかということなのです。

無論純粋な天才は現実にはほとんどいないし、のだめにしても上記のように、気ままに音楽をやっていたときのほうが幸せだったんじゃないかという問題を抱えているわけですね。ミルヒとの共演でセンセーショナルな成功を収めた後の抜け殻状態は、そして作曲科学生との対話は、この作品に深みを確保する重要な部分だった。しかし、残念ながら最後のハッピーエンドに強引に持っていったために、その深みが損なわれてしまっているように思えました。少なくとももう少し最後の部分に時間をかけていたら。

この問題は、清良のコンクール挑戦とも関わっています。3位という成績は微妙で、ソリストとして国際的にやっていくには悪くても2位には入りたかった。彼女は今後どうなるのでしょうか。コンクールの順位はその後の音楽家の人生を左右しますから、3位になった時点で彼女はこの問題に直面したはずですが、脇役の悲しさか、そこが描かれていません。のだめ自身の最後のあたりの身の振り方をも含め、描き込みが足りないなと思わせた部分です。

使われている音楽は、なかなか良かったですね。あと、出てくるピアノは前編と違ってYAMAHAで貫徹されていました。日本帝国主義、万歳~♪(笑)
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