CANACO

ライフ・イズ・ビューティフルのCANACOのレビュー・感想・評価

3.5
1997年にイタリアで公開。ロベルト・ベニーニ監督・脚本・主演作品。本作で1998年にアカデミー主演男優賞を受賞。カンヌではグランプリ(実質2位)を受賞。ちなみにアカデミー作品賞を獲ったのは『恋に落ちたシェイクスピア』で、パルムドールを獲ったのは『永遠と一日』。同じ戦争映画『プライベート・ライアン』と競った年だった。

感動作と呼ばれる作品を避けてきたのを一転、順番に観ていくシリーズ。

古本屋を開くため北イタリアに住む叔父の家に居候することになった主人公のグイドと詩人をやっている友人のフェルッチョ。
グイドは叔父が務めるレストランの給仕に、友人は使用人として働き始める。グイドは奇跡的に何度も出逢う小学校教師のドーラに猛アタックし、略奪婚。古本屋を開き、息子のジョズエをもうける。
経済的にはそれほどでなくとも、裕福な叔父のサポートもあり「素晴らしい人生」を謳歌していた親子3人。しかしナチス・ドイツのユダヤ人迫害が激しくなり、グイドとジョズエは収容所に連行される。後を追うドーラ。そこから始まる「収容所は人生の終わりか否か」を問う物語。

前半と後半で全くトーンが変わる本作。前半の北イタリア市街地のシーンは、華やかでカラフルなトーンで、後半の収容所のシーンはグレートーン。展開もその色と全く同じで、グイドは、ジョズエ、叔父のエリゼオとともに天国から地獄に突き落とされる。ユダヤ人というだけで。

しかしグイドは全く変わらずしゃべり続ける。周りの人間は男女みなうつむき、黙りこんで、絶望の表情を浮かべているのに。116分の漫談といってもいいくらいグイドは冗談を言い続ける。
これは今風にいえば間違いなくADHDだと思うし、死語を使うならKY(空気読めない人)だと思うが、「(環境を理由に)人生をあきらめない」というグイドの絶対的価値観は強い。このメンタルの強さが逆に腹立たしい人はいるかもしれない。外的要因でメンタルを病むタイプではなく、自己肯定感が高い。そういう意味で『ショーシャンクの空に』のアンディに通ずるものがある。

本作は、考え方で人生の見え方は変わることを教えている教育映画だと思う。グイドを脳天気すぎると感じる人もいるかもしれないが、ジョズエはきっと自己肯定感の高い子どもに育ったと思うし、それが父の教育だったと受け止めた。
グイドは古本屋の店主で、友人は詩人で、妻は教師。はちゃめちゃだけど、なぞなぞもすぐ解けるインテリジェントな一面がある。人生は豊かに生きられることを何としてもジョズエに伝えたかったのだろう。

一番引っかかったのはドイツ人医師と再会した後の最後のなぞなぞだが、これは仲間に近い親愛の情を抱いていた人が、実は全く自分に関心がなくて、もっといえばこの状況下でどれだけ切羽詰まっているかも気付いていないことがわかる恐ろしいシーンだと解釈した。ゼロ度の無関心、意味などなかった呼びかけ。本当に怖い。
戦争の冷酷さをしっかり描いた作品でもある。乾いた鉄砲音パパパパの非情さは心を砕く。ほとんどの人はグイドのように強くないから。
CANACO

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