ひでG

日本の黒い夏 冤罪のひでGのレビュー・感想・評価

日本の黒い夏 冤罪(2000年製作の映画)
3.9
1994年6月27日、深夜、松本市で有毒ガスが発生し、8人が死亡、200人以上の人が中毒症状を起こす大事件が起きた。
警察は第一通報者の河野義行さんを殺人容疑で家宅捜索、任意同行を求めたことから、マスコミは彼が犯人のような情報を流す。
その翌年3月、地下鉄サリン事件が起き、本事件もオウム真理教が起こしたことが判明し、河野さんへの報道は完全な誤報、冤罪だったことがようやく判明する。
自らもサリンにより入院、妻は意識が戻らず14年後に亡くなるという犠牲者にも関わらず、激しい報道被害を受けた河野さん。

この大冤罪事件を社会派監督熊井啓さんが2000年に映画化。ウキ情報によると、河野さんと熊井監督は事件以前から知り合いだったとのこと、冤罪事件はお手のもの?だった熊井が撮ることになったとのことだ。

お話は、地元高校の放送部がこの事件のドキュメンタリー制作するために地方テレビ局を取材するというかたちで進んでいく。
中井貴一演じる報道部長らは、その取材を受け入れ、冤罪事件の経緯を語っていく。

このテレビ局も当初から河野さん(映画では神部さんとなっていた)をシロとしていた訳ではない。ただ、中井貴一部長はさかんに
「裏を取れ!」と取材記者たちに指示をしている。
加熱し、一つの方向に流されがちな報道に対して、常にニュートラルない姿勢を崩していないと感じた。

映画自体も事件の経緯を丁寧に積み上げ、情に走り過ぎず描いていくのでとても観やすく、内容が入りやすかった。
こーゆー題材は、ともすると、制作側の熱意や正義が入り込み過ぎて力んだ作品になることがあるが、さすが熊井さんは、手慣れている。
最後の確証を得るため、自ら操作責任者の石橋蓮司と対峙するシーンは、石橋蓮司さんと若き中井貴一さんとのぶつかり合いで迫力がとてもあった。(石橋蓮司さんはいつもどこでも凄い!)

あの時から時が経ったが、一方的な情報に流されていく悪しき風土は少しも改善されていない。それどころか、もっと無責任な情報やフェイスニュースも軽々と流される時代になってしまった。
この冤罪は、1人の人生に修復できない傷をつけただけでなく、新たな事件を防げたかもしれない。(この冤罪がなくきちんと捜査していれば地下鉄サリンは起きなかったかもしれない)

起きてしまったことをしっかり伝え、検証していこうとするジャーナリズムの気概を感じる作品だったが、一点だけ気になったことがある。
河野さんが映画では神部さんに変わっていて、劇中ではオウム真理教の名を使っていなかった。裁判中だったからだろうか?アメリカや韓国の映画では、どんどん実在の名前が使われているのに、、日本ではできないのはなぜなんだろう。ご存知の方がいらっしゃったら教えてください。
ひでG

ひでG