DrDOG

あの夏、いちばん静かな海。のDrDOGのレビュー・感想・評価

5.0
 「あの夏、いちばん静かな海」はすばらしい。この映画は、ある意味ではみすぼらしい映画である。晴れやかな風景や男女の愛の語り合いはそこにはなく、コンクリートにかこまれたさえない海があり、平凡な少年と少女がそこにいるだけである。しかし、その姿、二人がフィルムに映るその姿を見るだけで、ぼくはなんとも言えない幸福感に包まれるのである。おそらくそれは、「あの夏、いちばん静かな海」は愛の映画だからであろう。そして、その映画の中の愛は、決して画面をおおいつくすような言葉や演技ではない。フィルムのつぶやきでしかないのだ。だが、映画館の椅子に座って、そのつぶやきに耳を傾けるのではなく、体をさらすだけでぼくは幸福な瞬間を体験することができる。ぼくが求めている映画とは、装飾による鈍化ではなく、削除することによる純化の道を選ぶものなのだ。それがこの映画なのだ。

映画館で何度でも観たい
DrDOG

DrDOG