ダイナ

あの夏、いちばん静かな海。のダイナのレビュー・感想・評価

4.6
北野武映画作品はバイオレンスかアートかのイメージが個人的に強く、それらの中でもシンプルな第一印象を受けるジャケットと予告の本作はなかなか食指が動かなかったのですが、これマジで傑作でした。

本作で特徴的なのはメイン格の男女が聾唖者ということで基本的に環境音、波の音や風、車の走行音がピックアップされていて、自然な空気感をありありと感じさせるサウンドは気怠さを誘う久石譲の音楽と相まって心地いいです。暴力で会話がうるせえアウトレイジは好きだけど、穏やかで静かな本作も良いじゃないの!

仕事中に折れたサーフボードを見つけた聾唖の青年がサーフィンへ没頭していく姿が映されるわけですが、淡々と趣味に打ち込む過程で人間関係が構築される様子も観ていて面白く、陽キャ集団やちょっかいサッカーコンビ、面倒見良い店長さんや仕事の先輩と出しゃばらずに存在感を発してくる脇役に支えられる茂と貴子の淡々と描かれる日常、そこでの人間関係の広がり具合がたまらなく、いわば水面に一滴垂らした時の波紋のように、大きいビッグウェーブを起こすわけでは無いですが確実に周囲が影響されていく様も美しいです。武映画特有のカメラワーク、バス停のすれ違いとか、大会後の空気感とか、もう全編最高。そして改めてリアルな会話って棒台詞がしっくりくるよなあと

3-4x10月(1990)とソナチネ(1993)に挟まれた本作の位置付けに当時のたけしの情緒が心配になります。たけし映画だけどマシンガンもチャカも出血も暴力も出てきません。でもイイ!静謐で侘び寂び、押し付けがましくない優しさが暖かくて素晴らしい作品でございました。
ダイナ

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