よ

いのちの食べかたのよのネタバレレビュー・内容・結末

いのちの食べかた(2005年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

圧倒的に不気味で残酷なのに、圧倒的に美しくて格好良い映像。音楽も、セリフも何もないのに90分間を長く感じずに見入ってしまう。

まるで道具のように扱われるもの全てが命ある「生命」という不気味さ。尊いはずの生命の誕生から死まで徹底管理されているという狂気。なのにこの美しい映像群はなんなのだろうか。
どんなファンタジーやSFよりも壮大で圧倒的な世界が、現実の、しかも自分と隣り合わせの世界で繰り広げられているというのが…。
今まで見たどんな映画の世界観よりもとにかく圧倒的だった。

批判的にでも好意的にでもなく、あくまでフラットな立場の映像も素晴らしい。
批判的にするのであれば音楽や映像の取り方でいくらでも批判的にできるはず。
でなければBGMを一切排除した環境音のみの演出や、不気味で恐ろしいながらもその中に美しさを見い出すような撮り方はしないのでは。

あと、この映画を観て「侵略者としての人間」というのを強烈に感じた。
自身の利益のために地球を侵略し、人間以外の全ての動植物を徹底管理する人間。なによりも鳥肌が立つのはその一旦を自分が担っているという事。

登場する人々の顔や食事の姿も印象的。ついさっきまで血が通ってるとは思えない所業を行なっていたのに、食事の時に見せる顔は自分や自分の周りにいる人と変わらない幸福に満ちた穏やかな顔だったりする。人間という生き物の一筋縄ではいかない複雑さが際立つ映像だった。

この映画を観た後に、命を大切にしようだとかご飯を大事に食べようなんて偽善的で当たり障りのない感想は言いたくなくなる。言語化できるような言葉では片付けたくないと思うほどのとにかく巨大で圧倒的な「何か」を感じる映画だった。

「いのちの食べかた」なんて説教がましいタイトルより原題の「OUR DAILY BREAD」の方がしっくりくる。
よ