デニロ

限りなき前進のデニロのレビュー・感想・評価

限りなき前進(1937年製作の映画)
3.5
2019年の日本は「一億総活躍」政策を以てして、曰く、死ぬまで働け、を奨励される。税と社会福祉の一体化政策はどこへ行ったんだ。現政権においては、もはや社会保障費に回す金などない、憲法を改正して軍需産業に日の目を当てるのだ、と躍起になっている。

働けないのか働く気がないのか朝っぱらからパチンコ屋に列をなしている若者たち。社会保障があっという間にどこかへ消えていく。厚労省の役人も分かっていつつも法律による行政を実現する。国民なんてそんなものだと、若き日の正義感など消えてしまうのだ。

1937年。本作の主人公は52歳。65歳まで働くとしてあとどれくらい貯蓄できるのかと奥さんと計算する。19歳の娘の嫁入り費用。長男は来年中学に進学。そんな彼に襲い掛かったのは会社が突然導入する55歳定年。うわっ、目の前が真っ暗。そんなお話。1930年代の「過少消費」は今に続く。80年経ってもちっとも良くなってないじゃないか!!

淀川長治、蓮實重彦、山田宏一の鼎談『映画千夜一夜』の中で淀川さんがもはや観ることのできない本作を生き生きと語られて、蓮實、山田の両氏が悔しそうにしていたことを思い出す。淀川さんはおふたりを前にしてシェヘラザードの如く物語の中に物語を作りその物語がまた物語であるという物語を語り尽くす。

愕然とする主人公。ここまではプリントが現存するが、主人公がおかしくなっている部分はほとんどが字幕での説明。ラストシーンも字幕で説明されるので緊迫感がない。悔しいのは蓮實、山田両氏だけではない。

1937年製作公開。原作小津安二郎。脚本八木保太郎 。監督内田吐夢。
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