よしまる

或る殺人のよしまるのレビュー・感想・評価

或る殺人(1959年製作の映画)
4.2
 ソールバスのアニメーション、バックに流れるのはデュークエリントンのジャズって最強のオープニングクレジット。

 最近「第十七捕虜収容所」で役者としてのオットープレミンジャーを見かけたので久々に監督作品を。これは初鑑賞。

 ジェームズスチュアートが「とある殺人」の弁護人を引き受けるところから物語は始まる。ジャズピアノをこなすクールな佇まいは、「スミス都へ行く」「素晴らしき哉、人生」での実直な正義の味方と比べると随分とシニカルで頭が良く、計算高い策士といった様相。
 相対するキレ者の検事には、本作がデビュー2作目となるジョージCスコットで、いきなりオスカーのノミニーに。

 前半、裁判に至るまでの事件の追究が少々長いのだけれど、法廷が始まってからの2人の丁々発止のやりとりは本当に面白い。
 レイプ事件を本格的に扱い、メジャーな映画でタブーとされてきた言葉をバンバン喋らせ、煽るように聴衆の笑い声まで巧妙に演出する。あの時代に初めて映画を見た人は客席で相当恥ずかしい思いをしたのかもしれない。これまでにも常識破りな映画を送り出してきたプレミンジャーしてやったりの演出だ。
 裁判長が大真面目に「パンティと聞いても笑わないように!」って言ってもそりゃ笑っちゃうよね。この真面目にやってんのかふざけてんのか分からない絶妙なバランス感覚が本作の面白いところ。

 そしてこの裁判長を演じたジョセフ・N・ウェルチが素敵。本物の弁護士さんで、赤狩りにもつながるマッカーシズムを強く非難したことで有名になった方だそうで、そんなことは知らなくても顔芸を観ているだけでもじゅうぶん可笑しいのだけれど、背景を知るとまた新たな視点で楽しむ事ができる。

 さて、ネタバレは避けるとして、アメリカでの裁判なので当然結末は陪審員に委ねられる。つまり裏を返すと弁護士も検事も説得すべきは裁判長ではなく、陪審員12人の心証。しかしながらこれは時に事件の真相や犯罪の真実を歪めかねない側面を持っている。

 法廷劇ながらサウンドトラックはジャズ。劇中ではエリントン本人がスチュアートと連弾する場面も登場し、リーレミックのファッションも含め50年代にしては全編に渡りセンスの漂うオシャレな映画。

 当然ながらプレミンジャー監督は、ヘイズコードを軽く越えてNGワード連発というチャレンジによって話題性を持たせながら、重々承知の上で陪審制度への違和感をこのオシャレなテイストと独特のユーモアの中に包み込んで見せたのではないだろうか。