ShinMakita

或る殺人のShinMakitaのレビュー・感想・評価

或る殺人(1959年製作の映画)
-
☆「落下の解剖学」公開記念、過去レビュー再録



ミシガン州アイアン郡。釣り旅行から帰宅したばかりのヤメ検弁護士ポール・ビーグラーの元に依頼の電話が入った。かけてきたのはトレーラーハウス住まいの主婦ローラである。彼女の夫は、陸軍所属のマニオン中尉だった。

数日前、ローラは夫が寝ている間に馴染みのバーに行き、客たちと楽しく呑んでいた。そして深夜、バーテンのクウィルに「家まで送ってやる」と言われ、彼の車に乗り込んだ。しかし人気のないトレーラーパークの入口に着いたところで、いきなりクウィルにレイプされたのだという。気絶し、気づいたらノーパンで放置されていたローラ。そして泣きながらトレーラーに戻った彼女を見るや、マニオン中尉は激昂。銃を手にバーに乗り込み、カウンターにいたクウィルを射殺してしまった。中尉は郡保安官に逮捕され、現在拘置中である。これから始まるマニオン中尉の裁判で、弁護をやってもらえないか…というのが、ビーグラーへの依頼だった。中尉が客たちのいる前でクウィルに五発もブチ込んでいるから、「無実」でも「正当防衛」でもない。検察が第1級謀殺で起訴しているので、ビーグラーが取れる手は、検察と取引して故殺を認めて減刑を図るか…一発逆転で無罪を勝ち取るしか無い。弁護を引き受けたビーグラーは、まずは中尉を陸軍病院の精神科医に診せ、〈解離状態による一時的錯乱〉という診断を得た。さらに、この一時的錯乱で無罪を出した1886年の最高裁判例も発見する。勝利を確信したビーグラーだが、郡検事も州検事局から敏腕検事ダンサーに協力を要請し彼を迎え撃つ。ビーグラーがレイプ事件に言及しマニオンが〈一時的錯乱〉に至った経緯を明らかにしていくと、ダンサーはローラの遊び好きな性格を攻め、レイプ事件が真実かどうか疑問視する。刑事を証人喚問し、レイプ現場にもクウィルの車の中にも精液やパンティが無かったことを証言させたのだ。そしてマニオンの戦歴にも触れ、戦場で冷静に敵を殺していたのに今回だけ〈一時的錯乱〉とはおかしいと主張。じわじわとビーグラーを追い詰めていく…





「或る殺人」


ソウル・バスのタイトルデザインとデューク・エリントンのジャズで始まり、何やらオシャレで「死刑台のエレベーター」みたいなアート感漂う作品。オットー・プレミンジャー監督の傑作法廷劇…と言われていますが、実はこの映画、法廷劇のセオリーからかなり外れています。
裁判モノって、社会正義あるいは社会的テーマを謳うヒューマンドラマか、予想外の結末やドンデン返しが醍醐味のミステリーか、二つに分けられると思うんですが、本作はどちらでもありません。あくまで「法廷戦術」に特化した物語なんですね。だから、真実が明らかになるというカタルシスはありません。なんなら、感情移入すらできないのです。正義と良識の代名詞であるジミー・スチュワートですら、綺麗な戦法を使わないし、殺人者であるマニオンを弾劾もしませんからね。しかし、この弁護側vs検察側の戦術のやり取りは、画面に食い入ってしまうほど飽きません。スチュワートの巧みな語り口も魅力ですが、何と言ってもダンサー役のジョージ・C・スコットの迫力ですね。二人の丁々発止のやり取りは最高です。さらに、法廷内のカメラワークの巧さと情報量の豊富さ。あるシーンでは中央でセリフを話すスコットの後ろでスチュワートも重要な芝居をしているし、さらにその左のローラ(リー・レミック)の表情も大事な情報になります。ここ一番の証言のときにはレンズがググッと寄ったり、とにかく見ていて楽しく飽きないカメラワークなんです。


あと、当時としてはコードに引っかかる「レイプ」「精液」「パンティ」といったワードを多用しているのも特徴。特にパンティは裁判の重要な争点なんですが、ちょっとした笑いも産んでくれるのが楽しいんですね。傍聴席で笑いが漏れるなか、裁判長が一喝する「なぜパンティを笑えるんですか❗️」が良かったなあ~(笑)



「変態仮面」の50年前に作られていたパンティ映画の傑作、ゼッタイに見るべし!
ShinMakita

ShinMakita