猫脳髄

ザ・トレインの猫脳髄のレビュー・感想・評価

ザ・トレイン(1989年製作の映画)
3.4
無理がとおれば道理が引っ込む。イタロ・ホラー界のハッタリ王、オヴィディオ・G・アソニティス謹製、前代未聞のオカルト・パニック・ホラー。ヴィデオスルーである(※1)。監督のジェフ・クイニーは、「殺人魚フライングキラー」(1981)でアソニティスにクビにされたジェームズ・キャメロンに警告されたにもかかわらず、引き受けてしまったそうだ。

ユーゴスラビアに文化大使として派遣された7人のアメリカ人学生。受入れの大学教授(※2)は、古代バルカンの秘祭が催されるという寒村に彼らを誘い込む。しかし、いきなり滞在先に火を放たれた学生たちは、命からがら通りすがりの列車に飛び乗るが…という流れ。田舎オカルトから暴走列車もモノ、そしてスラッシャーに転じたかと思うとまたオカルトに戻るという脈絡のなさ、よくいえばアクロバティックな展開を見せ、途中で無意味と気づくまで筋を負うのが大変である。

オカルト村で崇める魔王が学生のひとりを気に入って、逃走する彼女たちを追って機関車を暴走させるというのが一応の基本線だが、もうこの機関車がそもそも線路を走ってくれない。ユーゴ当局がオタオタする(暴走列車モノの定番だが…)のも道理で、現在機関車は何と沼地を走行中です。それだけのポテンシャルがあるのに、なぜかまた線路に戻ったりと支離滅裂である。

車内では案の定、人死にが相次ぐのだが、他の登場人物は何とも思わないらしく、せっかく派手に散っても報われない。挙句の果てには、ずっと沈黙していた人物が実は…というご都合主義で、まあそいつのおかげで魔王も無事撃破できてしまう。と、ここまで書くだけでも青息吐息で、超展開の作品は数あれど、「暴走機関車」(1985)はじめ、従来作品をパッチワークしつつ、ここまで大暴れする作品はなかなかない。ミニチュア特撮を多用して列車の暴走ぶりを演出するが、この出来も決してよくはない。

しかし、この臆面のなさ、堂々たるハッタリぶりがまさにアソニティスの刻印であり、魅力である。突き抜けた狂気のおもてなし精神には、お客側が平伏せざるをえないのだ。

※1 原題"Beyond the Door 3"もハッタリで、「デアボリカ」(1974)、「ショック」(1977)と無関係なトリロジーでアメリカ市場に売り込んだという鉄面皮。ちなみに「デアボリカ」はアソニティス(オリヴァー・ヘルマン名義)の監督作品である
※2 ほとんど無名役者ばかりのところ、ボー・スヴェンソンが演じている。こういうところの押さえはよくわかっている
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