Omizu

カンゾー先生のOmizuのレビュー・感想・評価

カンゾー先生(1998年製作の映画)
3.7
【1998年キネマ旬報日本映画ベストテン 第4位】
『うなぎ』今村昌平監督が坂口安吾の小説『肝臓先生』を映画化した作品。カンヌ映画祭で特別招待作品として上映、国内でも柄本明、麻生久美子が数々の賞を受賞した。当初は3時間超えの長尺であったという。

舞台は終戦直前の岡山県、「肝臓病」としか診断しないことから「カンゾー先生」と呼ばれた医師を中心にしたヒューマンドラマ。

さすが今村昌平。今まで今村作品は『神々の深き欲望』くらいしか気に入ったのがなかったがこれはいい。たぶんここカットされたんだろうなというのが分かるくらい作風が出ている。それが舞台立てと合っていて面白かった。

終戦直前ということで人々は荒れている。酒浸りの僧侶、モルヒネ中毒の外科医、淫売と揶揄される女性、救いようのない人々だがそれが愛おしく思えてくる。

「医者は足だ」ととにかく走り回るカンゾー先生。柄本明の少しとぼけたキャラクターが楽しい。ひょんなことからカンゾー先生の下で働くことになる麻生久美子も粗野な女性を上手く演じている。

話だけ聞くとハートウォーミング名ヒューマンドラマと思うが、最後までみるとなかなかハードな話。トーンは喜劇調であるが、捕虜の拷問、無実の逮捕など辛いシーンも結構ある。

下手な監督がやるとまとまりがなくなってしまったであろう本作を見事にまとめ上げた今村監督に感服。カンゾー先生の息子への想い、終盤のおばあさんの死など少し中途半端に感じる部分(たぶんカットされたんだろう)はあれど、自然描写が豊かな今村節全開の作品になっている。

題材はなかなか重いが、ハチャメチャなキャラクターが織りなす人間喜劇としてまとめた今村昌平の腕が光る。
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