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パガニーニのodyssのレビュー・感想・評価

パガニーニ(1989年製作の映画)
3.0
【パガニーニの伝記ではなくイメージ】

19世紀前半に活躍した伝説的なヴァイオリニストであるパガニーニを描いた映画です。ただし、正確に伝記をなぞったというよりは、多少の誇張を含めて活動していた当時の彼のイメージをそのまま映画にしたというような作品で、これを見てパガニーニの全体像が分かったと思うのは危険でしょう。むしろ彼の同時代の一般人が抱いたパガニーニ像を再現しているのであって、あくまで事実よりイメージを重視した映画です。

今ならアイドルのコンサートさながらに彼の演奏会では女性たちが大歓声を送り、失神寸前の陶酔に陥ります。またパガニーニは無類の少女好きでもあり、未婚の少女たちを次々と籠絡していきます。演奏旅行の連続で家庭を顧みない。ただし一人息子には子煩悩な面を見せます。

作品全体にパガニーニのヴァイオリン音楽が流れ、特にヴァイオリン協奏曲第1番が長々と使用されています。もっとも、街角でヴァイオリンを弾く少年から楽器を借りて絶妙の演奏をして聴衆を集め、演奏が終わると彼らからカネをとって少年に与えるシーンでは、ハイドンの有名な「皇帝」が使われています(DVDの解説をしている日野康一氏はどういうわけか「ベートーヴェンの音楽」と誤記していますが)。

なお、これだけ見るとパガニーニはヴァイオリンの天才だけどロクデナシだという印象しか残りませんが、彼がそれなりの教養人であり稼いだカネも必ずしも無駄に使ったわけではないという事情は、石井宏『誰がヴァイオリンを殺したか』に書かれていることを付け加えておきましょう。
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