カタパルトスープレックス

生きものの記録のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

生きものの記録(1955年製作の映画)
1.6
黒澤明監督による原水爆の恐怖をテーマにした文芸作品です。通算15作目。

前作『七人の侍』(1954年)でエンターテイメントの頂点を極めた黒澤明監督ですが、やっぱり根は文学青年。どうしても文芸作品を作りたいんですね。

しかし、黒澤明監督の文芸作品は駄作が多い。戦前の一部を除いたほとんどの作品はそうだし。『羅生門』(1950年)のあとの『白痴』(1951年)もそうですが、出来のいいエンターテイメント性の高い作品の後はどうしても文芸作品を作りたくなっちゃうんですね。

で、本作なのですが、やっぱりつまらない。原水爆に恐怖を抱き、ブラジルに移り住むことを計画する老人(三船敏郎)の話。もう、ストーリーからしてどうでもいい。老人の試みを阻止しようと家族が裁判に打って出る。ここで出てくる「準禁治産者」という本人の資産を家族の要請で凍結できる仕組みってのは怖いなとは思ったけど。精神異常じゃないと医者から診断されたのに、老人の意見に同意できないという理由で凍結。そんな運用していいの?しかも、これが2000年まで続いていたとは。原爆よりそっちの方が怖いわ。

ただ、準禁治産者の実際の運用がこの映画が正しく反映しているかはだいぶ怪しいと思う。『静かなる決闘』(1949年)でも当時はすでにペニシリンで完治できる病気になっていた梅毒を不治の病として描いちゃってたし。描いていた恐怖は法律の運用ではなく、原水爆なので、そこはテキトーでいいのかもしれないですけどね、黒澤的には。