凛葉楓流

生きものの記録の凛葉楓流のレビュー・感想・評価

生きものの記録(1955年製作の映画)
3.7
車がバラック街を駆け抜けて、あるところで止まり、人物が降りてくる。その際のカメラの動かし方なんて「ああ黒澤だ」という感じだし、サブリミナル的に挿入される核兵器の恐怖、土砂降りの雨もやりすぎ感がある。一方で会話と会話の合間にある沈黙が次第に長くなっていく感覚、そしてあの後味の悪いラストショットの無機質さは、どうも黒澤らしくもない。

老人を三船敏郎が演じていると途中まで気づかなかったのだけど、その老人が黒澤が体現してきたもののような気がしてきた。自分で工場を燃やしブラジルへ逃げようと皆に呼びかける場面で、工員たちから、自分たちはどうするのだとか、ブラジルも危険だとか、エゴイズムをこれでもかと指摘される。そこに末娘の弁明を挟むのが、せめてもの黒澤の救いに見えてくる。

妻がアルバムをめくりながら、「あの時は幸せで、その幸せのピークな気がした」なんてセリフ、小津かよ!
凛葉楓流

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