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ブレスレスのtakのレビュー・感想・評価

ブレスレス(1983年製作の映画)
3.3
ジャン・リュック・ゴダール「勝手にしやがれ」のハリウッドリメイク。舞台はアメリカ、リチャード・ギアが車泥棒の主人公、留学生のヒロインがフランス娘ヴァレリー・カプリスキー。

僕にとってリチャード・ギアは憧れの俳優だった。されど本作で演じる主人公は、他のカッコいい役柄とはまったく違うセコい車泥棒。ジェリー・リー・ルイスのロケンロールを歌いながら車をかっ飛ばし、まったくセンスを感じない派手なファッションに身を包んだチャラい男。はずみで警官を撃って逃亡、一度会って惚れたフランス娘を執拗に追い回して、彼女が通う大学で騒ぎを起こす。そして追っ手が迫ってくる。刹那的な生き方には共感も感じられない。

この役に関しては、そりゃオリジナルのベルモンドに敵うはずがない。あっちも行き当たりばったりの行動ではあるけれど、いちいち台詞はカッコいいし、ファッションも仕草まで絵になる。ギアはおもちゃのハート型ペンダントを彼女に贈るセンスのなさを持つ、おちんちん丸出しのチャラい男。

ハリウッド化するとこうも軽くなっちゃうのかなぁ…と残念に思っていると、少しずつ内面に映画は迫り始める。警察の捜査が迫る中で彼女にこだわって逃げ出そうとしない彼を、アメコミ「シルバー・サーファー」が地球を守る為に去らない姿に重ねていく。本屋で「あれはダサい。クソだ」と作品を罵られる場面もあり、なかなか街を出ない彼と重ねて見せる。

そして「明日に向かって撃て!」みたいに唐突に終わるラストシーン。オリジナルの「最低だ」って台詞を吐く代わりに、ギアは警官に囲まれる中。ジェリー・リー・ルイスのBreathlessを歌いながら路上で踊る。追いつめられた彼は最期をある程度覚悟していたのか。そしてその幕切れに「愛してる」が欲しかった。絶体絶命なのにはにかんだ笑顔を見せる主人公。微妙にカッコいい。最初はいけすかないヤツと思ってた彼が、気づくと"憎みきれないろくでなし"になっていた。"勝手にしやがれ"の後だけにw(沢田研二聴いてた世代にしか通じない表現ですみません😅)。

このジム・マクブライド監督は、数年後にジェリー・リー・ルイスを主人公にした「グレート・ボールズ・オブ・ファイヤー」を撮ることになる。脱ぎっぷりのいいヒロイン、ヴァレリー・カプリスキーは、翌年アンジェイ・ズラウスキー監督の「私生活のない女」で堂々たる演技を見せる。
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