うえびん

マルタのやさしい刺繍のうえびんのレビュー・感想・評価

マルタのやさしい刺繍(2006年製作の映画)
3.9
老いても子に従うな

2006年 スイス作品

舞台はスイスのエメンタール地方、穴あきチーズが有名なエメンタールチーズの産地です。アルプスの山あいの村トループ、山々と大きな切妻屋根や窓辺を花で飾った小さな窓、イメージどおりのスイスの山村の景色はのどかできれいです。

一方で、のどかな田舎まちは、人間関係が濃ゆいです。隣近所、誰もが顔見知り。噂はすぐに広がります。外から嫁いできた人には冷たいです。地方議員が威張ります。こういったことは万国共通だなぁとつくづく実感します。

80歳の老婦人マルタは、夫に先立たれて生きる気力を失っていました。そんな彼女は、ある日、若いころの夢を思い出します。友人たちの協力を得て、自分の刺繍でデザインした下着店を開くことを決心します。トループの村の人たちは保守的で、マルタの作る下着のことを破廉恥だと言います。あれこれ邪魔をして、夢をあきらめさせようと画策します。

一番の反対者は、マルタやハンニの息子たちでした。息子を説得したり、ねじ伏せたりする様は見ていて爽快です。マルタ、ハンニ、フリーダ、リージ、老女たちの老練で老熟した生き様に魅入られました。牧師の説教が薄っぺらく感じられます。

儒教に“老いては子に従え”という教えがありますが、マルタたちは子に従わなかったことでエンパワメントされ、生きる喜びを手に入れました。彼女たちが本来持っていた能力や活力は、わが子や保守的な村の慣習によって発揮できない状態に陥っていたのでした。

インターネットが閉鎖的なコミュニティを外に開きます。インターネットが内と外をつなげる力を持っていることについても、あらためて感じることができました。
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