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ディアボロス 悪魔の扉のArkのレビュー・感想・評価

ディアボロス 悪魔の扉(1997年製作の映画)
4.1
2023-406
フロリダで活躍する無敗の弁護士ケビン・ロマックスは、ある日ニューヨークの弁護士事務所からヘッドハンティングを受ける。豪華アパートを与えられ期待の星として迎え入れられたケビンだが、仕事に没頭するうちに彼の生活が壊れていく。


優秀な若手弁護士が高待遇で大きな事務所に誘われ、入ってみたら悪徳事務所だった……という流れはトム・クルーズの『ザ・ファーム/法律事務所』と似てるが、本作は悪魔や視覚効果が絡んでくるため、別物として成り立っている。(し、トム・クルーズのように走りまくったりはしない笑)

ネタバレあり↓

退職か昇進かの世界で、常に昇進を目指し続けなければならないケビンは毎日昼夜問わず仕事をする。ケビンにとってそれ自体は苦痛ではない様子。問題は妻のメアリーで、彼女は最初こそ豪華アパートに喜んでいたものの、他の奥さん連中のように高級な服を買ったり美容整形をしたりすることには興味なく嫌気が差してくる。しかもケビンは仕事優先で2人で過ごす時間がほとんどなく、メアリーは子供を望んでいるが当然子作りする時間もない。そんなわけで1人孤独感に打ちひしがれる彼女は精神的な病気になってしまう。

メアリーの目には色んな人が悪魔に見える。高級な服や美容整形に満足気な奥さん、人を殺すホームレス……。悪魔というのは誰の心にも潜んでいるものだと思うが、アパートやファームの異常性に気づき、切実にケビンと救いを求めるメアリーにだけは、そうした人間の汚いものが見えたり周りの人たちが人間の姿をした悪魔に見えたりしたのかな。

何気にゾッとしたのは、ミルトンに「家庭優先で本件を降りたらどうか?」と言われた時、妻が病気で誰が見ても危ない状態なのに「本件を降りて妻を恨むのが怖い」と言って仕事を優先したこと。とっくにケビンにとっての最優先が妻ではなく仕事になってしまっていたようでゾッとする。
そのくせ、妻が自殺しようとすると必死で止めようとするし、首を切った妻を抱えて取り乱したりする。
気づくには遅すぎる。

ミルトンこそが人の姿をした悪魔だったわけだけど、彼は人を操ったりはせずに選択肢を与えて、人間に自ら選ばせている自称ヒューマニストで、人に富や虚栄を与える。彼いわく、“虚栄”が1番好きな罪らしい。

本作は欲望に溺れて真に大事なものを見失う人間の愚かさを、宗教的に描いているのかな。

若い貪欲な弁護士を演じたキアヌ・リーヴス。彼自身も若くてパワーがみなぎっている(ように見える)。大きな声を出す場面が何度があり、叫ぶシーンを見ると「役者だなぁ」と再認識する(笑)あそこまで怒鳴ってるイメージがないので、なんとなく新鮮な姿な気もする。

逆にアル・パチーノは怒鳴っている迫力ある姿が印象にあるのでいつもの感じだった。全てを見透かしたようなミルトンの視線。人智を超えた存在って感じが圧倒的な存在感となっている。

シャーリーズ・セロンは顔が丸くてムチムチ。気が狂ってしまった女の役が上手い。

本作は、90年代前半に、当時人気急上昇中だったブラッド・ピットが主演を務める予定だったがサタンを演じる俳優が見つからず計画は中止に。
しかし、90年代半ばにO・J・シンプソン事件が起こる。引退後に殿堂入りするほどのフットボールプレイヤーで、俳優としても活動していた彼が、1994年6月に元妻とその友人の第一級殺人容疑者として捜査線上にあがったうえ、逮捕当日に繰り広げた派手なカーチェイスが生中継され、全米メディアをにぎわせた。DNA鑑定で確固たる証拠があるにも関わらず、ドリームチームと呼ばれる弁護団を結成し、弁護士費用に5億円かけた。結果、チューバッカ弁論と呼ばれる弁論で勝利を勝ち取ったが、誰の目にもクロであることが明白にも関わらず、5億円の弁護テクニックでシロと判定されたことで、弁護のあり方が問われる一件となった……とのこと。

また、キアヌ・リーヴスはスピード2の高額オファーを蹴って本作に出演し、アル・パチーノに出演してもらうために自分のギャラを大幅に削ったりもしたそうだが、スピード2の件以来『地球が静止する日(2008)』までの10年間フォックスを出禁となる。(『スピード』でも書いた)

アル・パチーノは、こうした視覚効果を多用した作品に出演したことがなかったため、ショーン・コネリーやロバート・レッドフォードあたりが適任ではないかと言ったらしい。3回断られたが、ハックフォードの希望はパチーノだったので、彼のために脚本を書き直し、終盤の大演説シーンを加えたりもしたらしい。

実はミルトンの部屋のレリーフと酷似する作品が存在しており、製作側は知らなかったと主張しているが裁判になりペナルティを負わされたらしい。
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