紫のみなと

ある愛の詩の紫のみなとのレビュー・感想・評価

ある愛の詩(1970年製作の映画)
4.7
10代の頃からこの映画が大好きでした。

当時観ていたのはテレビの録画だったと思いますが、最近見返したものが、当時のものと字幕が違っているのが残念でした。(この字幕問題ってよくあるんじゃないかと…特に長年映画を観ている者にとっては昔の字幕が好きだったのに、って)

本来、難病ものは好きじゃなくて、本作も冒頭でヒロインのジェニーが24歳で死ぬということが明らかにされていますが、そういった悲劇性に惹かれているのではなく、私がこの映画を好きなのは、結局ジェニーという女性のもつ魅力につきるのだと思います。

ジェニー演じるのはアリ・マッグロー。若い頃はアリの綺麗さが分からなかった。しかしスタイルは抜群で、ある愛の詩ファッションは当時物凄く憧れました。
キャメルのトレンチコートの立てた襟の中に黒髪をオン、胸元からのぞく赤のワンピース、ウエディングシーンのすずらんのブーケと髪留め、ピンクのチェックのパンツも、マリンルックも、ずっとタイムレス。

しかし、ジェニーの1番の魅力は決してそこだけではなく、ジェニー=アリのふとした表情やなんかに女性の健気さや弱さ、反対にその強さや寛容さなどの美質を感じることができるからだと思います。

特に好きなシーンはジェニーがライアン・オニール演じるオリバー・バレットと、2人で彼の実家 (バレット家は、代々ハーバード大卒の家系で大富豪) に向かい、結婚を踏まえた上でジェニーを紹介しに行くのですが、貧乏なジェニーとの結婚なんて権力者の父親には相手にもして貰えず、帰路、憤慨しながら車をぶっ飛ばすオリバーに対し、ジェニーが言う言葉。
ここは昔私が好きだった字幕と、現在の字幕が違っているから、ニュアンスが違うかも知れない、10代の頃の自分が勝手に思い込んでいた意味と、本当の意味は違うのかも知れないですが、
2人の会話の中で、オリバーがジェニーを愛しているのは、ジェニーの背景=貧しさという魅力も含まれているのであって、ジェニーにしても、オリバーの、ハーバード大学に講堂を寄付するような家系に惹かれている面がある、そんな、人が自分以外の人間に恋するカラクリを、不純な真実を、ジェニーによって露わにされた高潔なオリバーは、ムキになって否定しようとするけど、ジェニーはそんなもの全てを包括したものが愛ってものじゃない?と、全く悪びれもせず、スミレの花のように甘くて清潔な笑顔でオリバーに言う。
そんなふうに、ハーバードロースクールの秀才オリバーは、愛において慧眼なジェニーから様々なシーンで人生を教わることになる。

ラスト、ジェニーが、私から音楽とパリを奪ったと思っているの?とオリバーに投げかけるシーンもすごく好きです。

また、ジェニーの父親フィルのキャラクターも素晴らしい。この父親だから、こんな娘さんに育ったんだろうなと思わされる。

後世に残るような印象的なシーンも多いのがこの映画の特徴で、何年か前に一度だけニューヨークに行ったとき、セントラルパークにはもちろん足を運んだのですが、1番行きたかったのは映画に出てくるスケートリンク。ですが、当時ニューヨーク在住だった従姉妹に、そこは危険だから行かない方がいいと言われ、諦めた思い出が…。

この映画のあと、映画「ゲッタウェイ」でスティーブ・マックイーンと恋に落ちるアリ・マッグロー(完璧なカップル!) 、私はゲッタウェイで初めてアリの美しさに気付かされたのですが、グラマラスなブロンド女優にはない、しなやかな黒豹のような魅力をもつアリが、実は恩寵にあふれ、美しく聡明なジェニーそのものと重なってみえるのです。