ボブおじさん

殴られる男のボブおじさんのレビュー・感想・評価

殴られる男(1956年製作の映画)
3.8
このところ誰もが知るような有名な映画のレビューが続いたので、この辺で知る人ぞ知る、というかほとんどの人が知らない😅マニアックな映画について、マニアックにレビューします。

映画好きでも、この映画のことを知っていは少ないかも知れない。見たことがある人は、もっと少ないだろう。そしてこの映画のモデルとなったプリモ・カルネラのことを知っている人は、どれほどいるだろう?

ちなみに私は、9歳の頃に彼を知った😊

原作はバッド・シュールバーグの有名なボクシング小説「The Harder, They Fall (邦題=巨人は激しく倒れる)」。だいぶ昔に古本屋で見つけて購入した。

元はThe bigger they are,the harder they fall.(大きければ大きいほど、倒れ方もひどくなる)ということわざからきているようだが、この言葉自体イギリスのボクサーが相手選手に言った台詞から引用されたとの説もある。
 
ちなみにバッド・シュールバーグと言えば、映画ファンの間では、アカデミー脚本賞を受賞した「波止場」の脚本家として知られているが、小説家やスポーツライターとしても名が知られている。

プロフィールにも書いだが、自分は映画と同じくらいスポーツが好きで、中でもボクシングはガッツ石松の時代からファン歴50年になる。この小説に出てくるボクサーのモデルとなったプリモ・カルネラのこともよく知っていた。

だが、彼の名を最初に発見したのは、ボクシング小説やボクシングの雑誌ではなく、意外にもジャイアント馬場を主人公としたプロレス漫画「ジャイアント台風」の中、今から実に50年も前のことだった。

漫画の中で、かつてボクシングで世界ヘビー級チャンピオンだった〝動くアルプス〟ことカルネラが、引退後にプロレスラーとなってジャイアント馬場と対戦するというものだった。

劇画界の巨人、〝何でもありの😅梶原一騎〟原作だけに、虚実入り乱れた内容なのだが、カルネラがボクシングの世界ヘビー級チャンピオンになったのも、後にプロレスラーになったのも紛れもない事実である。

ちなみに、日本にも1度だけ来ていて、あの空手チョップの力道山と対戦している。力道山の息子である故百田義浩さんの話によると力道山が実際に戦って心底強さを感じたのはルーター・レンジとプリモ・カルネラの2人だったと語っていたそうだ。

映画もプリモ・カルネラをモデルとしたボクサーの悲劇を題材にした作品で、主演はハンフリー・ボガード。彼の最後の作品で、当然ボクサー役を演じたのではなく、ボクシング担当記者を演じている。

ボクシングを題材にした小説や映画は、無数にあり、その中にはボクシングの八百長場面が出てくる映画も少なくない。シュルバーグの原作にもあるように、アメリカではかつてギャングがボクシング界を牛耳っていた暗黒時代があった。

映画の中でもアルゼンチンからやって来たトロは、2メートル近い巨躯ではあったが、ボクサーとしての実力は二の次ぎで、その特異なサイズを悪徳プロモーターに見込まれ、ギャングに食い物にされてしまう。本人も知らないうちに八百長試合を仕組まれて勝ち続けるが…。

シュルバーグの小説は、イタリア人のカルネラを南米のボクサーに置き換え、その身に実際に起こった悲劇を、新聞記者の目から見つめた作品である。実際のカルネラも後にギャングとのつながりや八百長試合を指摘されている。

この映画は、ボギーの最後の映画であり、悪徳プロモーターのロッド・スタイガーが見事な悪役を演じている。

この古い映画を語る時は、彼らの名演について語られることが多い。だが私の中でこの映画は、悲劇の巨人プリモ・カルネラを思わずにはいられないのだ。

そういえば、子供の頃に読んだ「ジャイアント台風」は、〝あの〟梶原一騎が原作だけにプロレス同様、虚実入り乱れた話なのだが、なぜかカルネラの中に何とも言えない哀愁を感じた。

10歳にも満たない子供が彼の哀しい過去を知るはずもないのだが、漫画の中には、彼の悲劇性が滲んでいた。梶原一騎恐るべし😅



〈余談ですが〉
世間的な評価と関係なく、自分の好きな要素や思い出が詰め込まれている作品だ。

今回レビューするまで、この映画のモデルとなったプリモ・カルネラをずっと悲劇の男と思っていた。確かに彼の史実を追っていけば、彼の悲劇が浮かび上がってくる。

だが、彼の人生は、本当に不幸だったのか?

複雑な経緯はあったにせよ、曲がりなりにも①ボクシングの世界ヘビー級チャンピオンにまで上り詰め、並列では語れないが、②プロレスでも世界チャンピオンになっている。その後、③何本かの映画にも出演して、④映画や小説のモデルにもなっている。全てが本人の本意ではなかったかもしれないが、この中の1つでも実現できれば死んでもいいと思っている人もいるはずだ。

何年か前のテレビ番組「美の巨人」でミラノ大聖堂を取り上げていた。聖人像など宗教的に重要な作品が多い中、珍しい物もあるとボクサーの彫刻が映し出された。ナレーションは、このボクサーの像を世界ヘビー級王者にも輝いたイタリア人ボクサーのプリモ・カルネラをモチーフにして作られていると説明していた。

果たして彼の人生は、悲劇だったと言えるのか?その答えは、もはや誰もわからない。


〈更に余談ですが〉
漫画「ジャイアント台風」は、今から40年以上前に処分している。それでもストーリーや台詞などはハッキリと覚えている。

今では一昨日見た映画の役者の名前もスラスラとは出てこない。あの頃の素直な気持ちと記憶力よもう一度😅