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グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独のodyssのレビュー・感想・評価

3.5
【一見に値するドキュメンタリー】

カナダのピアニスト、グレン・グールドのドキュメンタリー。彼を扱ったドキュメンタリーは過去にも作られていますが、この映画は私生活や女性関係にも踏み込んでいるところが特徴でしょう。

もっとも、グールドという演奏家、私はあまり好きではありません。奇矯な面が目立っていて、そこが人目を惹くわけではありますが、ちょっとあざとい感じがして、もう少し素直な演奏ができないのかなと思う場合が多かった。といっても、彼のディスクをそんなにたくさん聴いているわけじゃないんですが。

しかし、この映画では演奏場面が多く収録されており、演奏している場面の映像つきで音楽を聴くと、結構説得的だなとも思いました。やはり音楽は、演奏家が弾いているさまを見ながら聴くのが本来のありかたなので、姿を見ずにディスクやラジオで聴くのは邪道なのかもしれません。言うならば工房を見ることで製品の味や使用法も深まるということでしょう。

有名な、指揮者バーンスタインと独奏者グールドがブラームスの協奏曲の解釈で対立して、バーンスタインが演奏前に聴衆に向かって「私はこの解釈に反対だが」と釈明した演奏会も収録されています。いわば伝説的な演奏会ですが、こういうシーンに立ち会う場合があるからこそ、クラシックの音楽会はスリリングなのです。日本人の演奏家はお行儀がよくてこういう自我の相克を見せてくれない。日本人演奏家が国際的なコンクールで上位入賞する例が増えている一方で、日本の若者にクラシック音楽がさっぱり流行らないのも、うなずけます。

グールドの好き嫌いは別にして、日本人にもグールドのような演奏家が出てほしいと思うこの頃です。

上記のように私生活や女性関係にも触れられていますが、シャイなグールドは結局は自分に合う女性にめぐり合うことがなかったという印象を受けました。彼に必要だったのは地獄の果てにまで付いていくというタイプの女性だったのでしょうが、実際にはかなり現実主義的な既婚女性との付き合いで消耗したのではないか、私はそのように受け取りました。まあ、ヘンデルもベートーヴェンもブラームスも独身で終わったわけだし、音楽家と女性は相性が悪いのかも知れませんね。ワーグナーみたいに神経の太い作曲家は少数派なんでしょう。
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