ナイトアウェイク

イマジン/ジョン・レノンのナイトアウェイクのレビュー・感想・評価

イマジン/ジョン・レノン(1988年製作の映画)
5.0
[僕は反抗的な人間だが、人に愛されたい。]
ビートルズの事は、名前以外は全く知らない。
ジョン・レノンについても、全く同じ。音楽は耳にした事はあっても、知ってる音楽でもなければ、ファンでもない。
全く知らないというのが、一番適切と思う。


人に愛されたいから、人に優しい音楽が多いんだと分かった。
劇中では語られなかったけど、実際のライブではバンドとして大事な大舞台といえど、本人達が引く程に音をハズす事もあったらしい。演奏能力が追い付いてなかったというのも正直に驚いた。
逆に、それに気付いてないファンにがっかりした事にも納得した。
音楽家なのに、音楽を聴いてもらえない。
心底、残念な気持ちだったろうと思う。

[僕はビートルズと一つだ。]
[彼等と一緒に私達も育った、青春そのものよ。]
[皆、ビートルズを愛してる。]
ジョンの気持ちを考えると、それらの言葉が虚しく、寂しくなる気持ちだった。

奥さんのヨーコの存在がジョンそのものを変えたと、私も何かで読んだ記憶が甦った。けど、この作品を観ると、その事自体が完全に間違いなんじゃないかと思えた。ジョン・レノンは人から愛されたいけど、同時に人を愛したいんだと思う。
そして、ヨーコについては、どうしようもなく愛しい人なんだと自覚してるから、歌に名前を入れる事も躊躇いは無かったんだろうね。

ヨーコに会いた過ぎて、大好き過ぎて、仕方なかったろうね。一度離れて、また一緒になってから、二人が裸で笑ってくっついてるシーンはなんだか号泣した。
多分、その直前の[stand by me]の事を知ったからというのもあるけど。
スタンドバイミーの映画は、[友達との関係は変わっても、あの日の記憶は永遠のもの。]という意味で私は捉えてる。
けど、ジョンが実際に制作した当初、どうしようもなくヨーコに会いたかったからなんだと知って、視点が変わった。とてつもない、ラブソングだったんだね。

観終わって数十分、[イマジン]の歌が頭から離れない。こんなに優しくて、人に寄り添う曲がジョン・レノンにはある事を初めて知った。

記録。




(私の勝手な妄想)
ジョンが平和や愛を歌ってたのは、もちろん大好きなヨーコの為。
だけど、愛を囁くようなものじゃない、平和そのものを歌ってたその理由を考えてみた。

ジョンはもしかしたら、遅かれ早かれ、ヨーコより早く自分が死ぬ事を分かってたんじゃないか。覚悟してたんじゃないか。

ヨーコもメディアには露出してた。
けど、ジョンは音楽という誰の手にも届き易い媒体によって、より多くの人に強いメッセージを発していた。ビートルズ時代から、自分等を敵視する過激なグループもいた。ヨーコも共にメディア露出していたのは同じだけど、それ以上にジョンは自分で音楽を制作して、本音を発信する立ち場にいた。そして自分は反抗的な人間だと、しっかり自分の人間性を認めてる。

ジョンは生きてる間に、平和と愛を歌う事でヨーコを取り巻く戦いというものを、少しでも軽くしたかったのかな。
メディアとヨーコの戦い。
自分の発言が発端での、ヨーコへの集中砲火。
自分がいなくなったら…と、考えたら、自分の分もヨーコは抱えられるか?

ヨーコは自分と一緒に戦ったし、ヨーコは半端に弱い女でもない戦える女。でも、気持ちは強くても、力という暴力に対してはどうか。
人は、手で持てる石一つでも人を殺せる。ヨーコは弱い女でもないけど、簡単に信念を捨てて人の波に流れる女でもない。

もし自分の歌が届いたなら、そこにヨーコも行かせてほしい。手を繋ぐ事はできなくてもいい、せめてヨーコと一緒に立ってほしい。
ジョンの歌は、ヨーコを心から心配して、心の底から愛してるという思いから[平和]を歌ってたんだと感じた。
その先には、大事な子どももいる。自分は一生音楽をやるだろう。そんな事を言ってたジョンと音楽を、5年以上も疎遠にする程の存在で、大事な子ども。
ヨーコと子どもの環境が少しでも平和であってほしいと願う、そんな優しいジョン・レノンが目に浮かぶ映画だった。