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追想のodyssのレビュー・感想・評価

追想(1956年製作の映画)
4.0
【皇太后の言葉】

BS録画にて。

ロシア革命で皇帝一家は全員惨殺されたのですが、四女のアナスタシアだけは存命したという噂がありました。実際にアナスタシアを名のる女性が現れたりしたのですが、現在ではアナスタシアも両親などと共に殺されたというのが定説になっています。

本作品は、そのアナスタシアかも知れない女性をイングリット・バーグマンが演じ、彼女は偽物だけれど本物に仕立てて英国の銀行に預けられているロシア宮廷の遺産をいただこうともくろむ旧ロシア軍の将軍をユル・ブリンナーが演じています。

しかし西ヨーロッパに亡命しているロシア貴族の中にも少数ながら彼女が本物だと信じる人が出てくる。つまり、彼女が本物なのか偽物なのかが不明、というところが本作品のミソです。

真偽の最終的な判断は、殺された一家とは別居していた皇太后(つまりアナスタシアの祖母)に委ねられる。彼女は最初は孫と称する女性と会うのを拒みます。それまでも孫の偽物に何人も会ってうんざりしていたからです。しかし孫である可能性がある女性と会ってみたいという気持ちを抑えきることはできない。

本物であれば、それにふさわしいロシアの貴族と結婚しなければならないのですが、しかし・・・と話は続きます。

この映画で重要なのはヒロインと将軍の二人だけではなく、皇太后でもある。最後で彼女が放ったせりふ「芝居は終わった」はどういう意味でしょうか。

表層的に受け取るなら、例の女性はやはり偽物だったと受け取れます。
しかし、おそらく作者の真意は別のところにあるのでしょう。

貴族と形式的な結婚をするのではなく、本当に好きな男性と結ばれたいという気持ち。それは貴族制社会が終わることで可能になる。ロシア革命はロシアの貴族社会を終わらせた。それによって王侯貴族の娘でも身分に関係なく好きな男性と結ばれる可能性が生まれたのだ。そういう時代になったことを素直に認めようではないか・・・皇太后はそう言おうとしたのではないでしょうか。

それにしても邦題がよろしくありませんね。原題の「アナスタシア」でいいのでは。
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