オーウェン

吶喊(とっかん)のオーウェンのレビュー・感想・評価

吶喊(とっかん)(1975年製作の映画)
4.3
この映画「吶喊」は、動乱の幕末を死と背中合わせの若者の心情を刻みながら、痛快に生きた姿をユーモラスに描き、戦争の愚劣さを風刺した、岡本喜八監督・脚本の才気あふれる青春時代劇の隠れた傑作だと思います。

千太(伊藤敏孝)は、貧乏百姓のせがれで単細胞。
万次郎(製作も兼ねた岡田裕介)は、目先のきく官軍の密偵見習い。
ともに狭い枠の中では、とうてい生きられない自由闊達な若者だ。

この二人が、みちのくで戊辰戦争に巻き込まれ、仙台藩の下級武士・十太夫(高橋悦司)が組織するカラス組なるゲリラ隊と共に官軍と戦う羽目になってしまう。

千太は、何のために人々が血を流し合うのかさっぱり解らないが、何かやっていれば、そのうちにいいことがあるだろうというヤジ馬型。
一方の万次郎は、事態を冷静に見極め、計算して行動する打算型。

この好対照の二人がだましたり、だまされたりしながら戦争そっちのけで、軍用金の強奪を企てることに--------。

無意味な戦争をあざ笑うかのように、奔放に生きた若者の姿が、戦中派の岡本喜八監督の軽快なテンポの演出と相まって、観ている私の胸に生き生きと迫ってくるんですね。
とりわけ、伊藤敏孝演じる千太のずっこけぶりがおかしく、悲しい。

この「吶喊」は、太平洋戦争に押しつぶされた一学徒兵の青春をシニカルに描いた「肉弾」の延長戦上にある作品ですが、戦争と青春を直視した「肉弾」とは手法を変え、同じモティーフを斜視しながら、戦中派の心情を吐露してみせるあたりは、さすが岡本喜八監督、心憎いばかりのテクニックを見せてくれます。

仲代達矢、高橋悦史、岸田森、田中邦衛、伊佐山ひろ子など脇役陣も豪華で、木村大作の撮影、佐藤勝の音楽も、実に素晴らしかったと思います。
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