くまちゃん

ドラえもん のび太と鉄人兵団のくまちゃんのレビュー・感想・評価

3.8
鉄人兵団が人間を奴隷化するため地球侵攻するヘヴィな内容。

神は傲慢な人間を見放し、天国のような理想郷建国目的でロボットを作った。
それは時代とともに歪められた神話となり、人間と同様、醜悪な社会制度を形成するに至った。
差別、奴隷制度、階級社会など、人類史における負の部分をストレートに抉り出す。

ロボットの進化の過程が人間と合わせ鏡のように同じ道を辿ったという歴史。
鏡面世界という舞台設定。
科学の発展は製作者の意図と異なる結果に帰結する可能性。
世界の危機を誰も信じてくれないことに対する「この映画を見ている人以外は無理」という発言も相まって、物語全体をメタ的にシニカルに描写している。

お風呂の鏡面に気がつくしずかや策を巡らせるドラえもん、とんちの利いた問題を出すのび太、観測時と視認時の地球の地形が異なる事に気がつくロボット隊長等、洞察力や地頭の良さが描かれている。

特にドラえもんは、スネ夫とジャイアンにのび太との手打ちを交渉したり、
鉄人兵団を迎え撃つために策略を練ったりとドラえもんらしからぬ聡明さが垣間見ることができる。

祖国への忠誠心と人間奴隷化の間で葛藤するリルルは深く共感することができる。その姿は敬虔なクリスチャンのようでもある。
宗教と倫理、正義と組織、夢と現実、
相反する理念と感情に挟まれる事はだれしもあることだろう。リルルはロボットでありながら誰よりも人間らしかった。

過去改変からの鉄人兵団に対する記憶や
しずかがビックライトを使用するのと同じタイミングでドラえもんがビックライトを取り出したりだとか
気になる所が少々。

工作兵だったリルルがメカトピアの天使になるラストは、しずかとの友情もあり切なくも美しくまとまっていた。
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