豚肉丸

ヴェルクマイスター・ハーモニーの豚肉丸のレビュー・感想・評価

4.7
田舎の町にサーカス団と「世界一巨大な鯨」がやって来たことにより、徐々に村全体が暴力と不安に蝕まれていくお話

凄すぎる。
タル・ベーラ監督の作品はまだ『ニーチェの馬』しか見たことがないので、あまり監督の「らしさ」とか言うことはできないが、とにかく凄すぎる。
『ニーチェの馬』では日常と狂い始める世界を表すのに長回しが活かされていたにが、この映画では徐々に狂っていく町を表すのに長回しが活かされていた。
町の中央の広場と、そこに設置された大きなトラック...その中には「世界最大」のハリボテの鯨がいる。民衆が不安そうに見つめながらトラックから鯨が現れる冒頭。そして、次第に火の気が増して民衆達の暴力の気配が高まっていく中盤...
主人公が訪れる度に広場の様子は流れるように変わっていくが、その中で唯一ハリボテの鯨だけは不変の存在として置かれている。
鯨と神の暗示とか、ヴェルクマイスターの調律とかはそもそも知らないのでわからないが、ハリボテの鯨があまりにも印象に残る...

まさに不安を高める演出が凄い。先程書いたような広場の移り変わりもそうだが、ワルキューレをバックに子供達が鍋を叩き歩き回るシーンは特に不安を掻き立てられる。そして、その不安が爆発したような精神病院暴動シークエンスは...物凄い。ワンカットで凄惨な暴力を描き、その後登場人物と観客の心情が一つになったように虚無感が描かれる。長回しの演出は時間を忘れさせリアルタイムで追体験するための演出だとしか思っていなかったが、まさか映画の環境に入り込めさせるための演出でもあるとは...

あの女の目的や暴動後の日記など、英語力が足りず所々意味がわからない箇所もあったのだが、それでも素晴らしい作品であった。凄いわ。
豚肉丸

豚肉丸