Omizu

ユリシーズの瞳のOmizuのレビュー・感想・評価

ユリシーズの瞳(1995年製作の映画)
4.3
【第48回カンヌ映画祭 審査員特別グランプリ】
『旅芸人の記録』のテオ・アンゲロプロスが手がけた「国境三部作」の最終作。カンヌ映画祭では審査員特別グランプリとFIPRESCI賞を受賞、ヨーロッパ映画賞やゴヤ賞など世界的に評価された。177分はアンゲロプロス作品では長い方ではない。

「オデュッセイア」をモチーフに、ギリシャ最古の映画フィルムを行方を探し求め、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で動乱のバルカン半島を彷徨する映画監督の旅を描いた壮大な叙事詩映画である。

英題は「Ulysses' Gaze」なのだが、原題は「To vlemma tou Odyssea(オデュッセウスの視線)」であり、ハーヴェイ・カイテル演じる映画監督=オデュッセウスなのは明らか。さらにそこにギリシャで最初の映画を撮ったとされるマキナス兄弟が重ねられているという多層構造。

アンゲロプロスの中ではかなり上位に来た作品かも。過去との交錯のさせ方すごく好きだった。説明も何もなく映画監督からマキナス兄弟の視点になったり、現在の映画監督と子供時代とを混濁させたりとアンゲロプロス節が上手く作用している。

アンゲロプロス流の『8 1/2』なのかなと思った。レーニンの巨像が吊られて運ばれていくところや、映画監督=自分自身を主人公に映画をつくるべく彷徨うという全体のストーリーも近いものがある。

そうしたごく個人的な話に映画史の謎が加わり、更にボスニア・ヘルツェゴビナ紛争というテーマも盛り込まれ、叙事詩と言うにふさわしい圧倒的なスケールを感じさせる。

霧というアンゲロプロスにはよくある描写と終盤の悲壮感…やっとのことで現像したフィルムには結局何も映っていなかった。

自分のやってきたことには意味があったのかを問う旅だったと思うのだが、途中で友人が「結局世界は何も変わらなかった」と言う。自分のする事には何の意味もないのではないかという不安と焦燥感がラストに結実する。非常に辛く哀しい作品だった。
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