警視庁物語シリーズ24本の最終作。
ドキュメントタッチで当時の世相や風景を背景に、リアリティの有る事件を刑事達が追いかけて行く。

舞台となる皮革工場やそこに勤務する大卒の研究員、そしてイタリアとの技術交流等、今観ても少しも古く無い。
街頭でのロケーションも雑踏の中で周囲の人々は撮影が行われている事に気づいていない様子。スピード感溢れる画面から、1964年東京オリンピック開催の年の日本のパワーを感じる。

スマホもPCも無いアナログ捜査がスピーディで魅力的なのは監督の職人技👍

1964年公開。大好きな警視庁物語のシリーズ第24作にして打ち切り作。遂に最後のレビューを上げる時が来てしまった

第1作の公開が1956年なので8年の間に24本が製作されたことになる。年間平均3本というのは如何にもプログラムピクチャーらしいハイペース。80〜90分ほどの ”長編” が数本あるものの基本的には60分前後の短尺、ドキュメンタリータッチを重視した乾いた演出による無駄の無いソリッドな展開が魅力で、捜査の過程を過不足なく丁寧に描いているので時間が短くても一定の深みを感じさせる。
キャスティング面ではスター俳優の不在が重要な要素で、中年刑事達の内面を殊更に深く描写したり特段のヒロイズムやセンチメンタリズムを持ち込まないのが凄く良い。感情露わに怒声を張り上げる刑事なんてのは一人も居ないんである。粛々と地道な捜査業務にあたるオヤジ刑事達の姿は時にシリアスで、時にユーモラス。彼らの私的な背景が描かれることは殆ど無いが、長寿シリーズなだけにレギュラーメンバー(神田、堀、花沢、山麟、須藤)には次第に深い愛着が湧く。
一方で犯罪の背景に見られるのは市井の名も無き生活困窮者など底辺層の悲哀であり、事件の真相が次第に明らかになるに連れて高度経済成長が生んだ日本社会の暗部が自ずと浮かび上がって来るって寸法。特に初期から中期に掛けてはロケーション撮影が多彩で、街の様子やドヤ街の光景が社会情勢をリアルに捉えていて画面の隅々まで興味をそそられる。

▼以下ネタバレあります

シリーズラストとなった本作、監督は前作に続いて小西通雄。つまり2本撮りだったらしい。主題は学歴格差とやはり貧困の問題。物語は失踪した同僚二人の会社員の捜索で幕を開けるが、この両者の関係性を巡って事件の真相がツイストを伴って徐々に明らかにされるサスペンスフルな展開がスリリングで面白い。捜査一課の刑事達によるいつも通り地道で着実な捜査が一歩ずつ進む度に静かに胸が躍る。

今回も当時の世俗描写が興味深く、被疑者が打ち込んでいる(＝熱を上げている)女性が「あるさろ」で働いているらしいなんて言うので何だそれ？って思ったら「アルバイト・サロン」の略で所謂キャバレーの事であった。この女性を演じているのは本シリーズに脇役で何度か出演している小林裕子で、愛らしいルックスと快活なキャラクターが毎度印象に残る。救われないヒロイン役の水上滝子は職場の部長(加藤嘉)の愛人であり同僚の被疑者が心を寄せるというなかなかエグい役所で、しっかりそれに見合った色気と影を見せている。
あと面白いのは当時既にイヌ専門の美容室があって、トリミング・シャンプー・爪切り・マニキュアとフルコースで料金は3,000円オーバー。聞き込みに入った林刑事(花沢)がボソっと「わしの行く髪床(カミドコ)は洗髪入れて150円だw」なんて言っている。

皮革工場の濃硫酸タンクから害者の遺体が発見されるシーンはなかなかショッキングで、時代を考えるとかなり攻めている印象。良いねぇ。浅草ロケによる緊迫感溢れるクライマックスは、例によってゲリラ撮影と思しき臨場感どころじゃないリアルな映像も挿入されていて圧巻の見応え。ストリートを足早に駆け回り必死の聞き込みを行う刑事達を短いカットで繋ぐ編集がめちゃめちゃカッコええ。ストリングスが緊張感を煽るスリラー調の劇伴も一層の効果を上げていて思わず息を呑む。音楽は菊池俊輔。冒頭で行方不明とされた二人、つまり被害者と犯人の顔を最後の最後まで手配写真でしか見せないというのも憎いし、珍しくバッドエンドにも似たほろ苦い後味を残すラストは実に味わい深い。は〜最終作も期待を裏切らない名作であった。58分。

なお本作は主任(神田)が電話に出て珍しく「戸川です」と自分の名を名乗ったり、これまで以上に自ら積極的に現場へ赴く様子が見られるのは偶然だとは思うが、シリーズ最終作に相応しいと感じられて満足度が高い。

全24作を通じた総合MVPは、全ての脚本を担当した長谷川公之。警視庁刑事部鑑識課出身である彼のペンによるリアリズムが一番の肝であることに異を唱える人は居ないと思う。

映画は無駄の無いスッキリとした短尺なのに、自分のレビューは思いつくままダラダラ打って自分史上ぶっちぎりの最長となってしまった。あ〜もうこれ後続ドラマの『刑事さん』を特典にしてボックスセットとしてリリースして欲しい。よろしくお願いします!!

• #警視庁物語

警視庁物語シリーズと言えば主人公たち刑事の地味な捜査の末に容疑者が浮かび上がり証拠を固めて逮捕していくという流れだが、それに加えて本作では事件の真相が暴かれるにつれて容疑者や被害者など事件に関連する登場人物の立ち位置が変わっていくというミステリー要素もあって切れ味の鋭い傑作に。警視庁物語シリーズの常連で様々な役を演じてきた加藤嘉の一言で事件の構造が聞いていた刑事同様ひっくり返る衝撃の凄さは中々ない。一方で警視庁物語特有のテンポのよさも健在で、50分という時間で濃厚な物語展開がスピーディーに捌かれる手腕に脱帽。

事件の全貌が明るみになるにつれて、頭はよいものの家庭の事情で大学へ行けなかった犯人がそれを偽証までしてエリートとして生きていこうとした意地らしさに胸を打たれる。現在よりも大学出という言葉に格のあった時代ならではの悲劇。肝心の犯人はその事を口にせず、第三者である刑事たちの口から事情が淡々と語られるのがまた辛い。

もがき続けた挙げ句最悪の事態になった犯人とそれをただ見つめるだけの刑事たちによる『特捜最前線』の『新宿ナイト・イン・フィーバー！』のようなビターなラストが切ない余韻を残す。

舞台となる東京オリンピック開催当時の東京の風景や、生活事情も見所。

あと犯人が死体を処理するために行ったグロい方法(脚本家の長谷川公之氏が実際に経験したことが元になっているとか)も見物、モノクロだから何てことなく見ていられるけれどカラーだったらどんなホラーよりもおぞましい映像になっていたな。

ちなみに捜査のきっかけとなる人探しは警察と捜索を願い出た人物にコネがあったから捜査を開始するというのがリアル、実際そういうのがない限り人探しでの警察の対応は『さがす』のようなすげない感じになるらしいし。