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太陽のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

太陽(2005年製作の映画)
4.2
ソクーロフが描く天皇

よその国の話みたいに感じたけれど、神格化された人物が苦悩しながら徐々に一人の人間として自由を取り戻していく様が哀しくもあり、解放される安堵もあり、人物の言動をクローズアップさせる手法は見事だった。舞台演劇的でもあるので、デフォルメされていると思われるが、史実に合うとかではなく、歴史上の出来事の重みと痛みをより深く刻んだ秀作だと思う。

様々な歴史上の人物をシェークスピアが戯曲にしたように、芸術として昇華されていた。

「大東亜戦争」へと広がった日本の意識が、一人の人間に集約され、自らその炎に蓋をする。その行方は灰なのか、煙なのか。天皇が燭台の火を消すシーンが印象的だった。

尾形イッセーの二重の演技力が素晴らしい。神を演じる一人の人間が、突如それが面倒になって尾形イッセー的なふつうの人になる。演じることを演じている人間を演じている。

ロシアから見たアメリカ観も反映されていて、実際はマッカーサーは紳士の振る舞いはしたと思うし、GHQのMPもあんなにフランクでルードではなかったと思う。

20才に、病弱な父親の代わりに要職(摂政)に就いてから、周りに父親の代の長老たちがいて、自分の考えをはっきりと伝えられなかった背景が見てとれた。語ることの怖さ。言葉の影響力。奔放だった父親が祖父や周囲から厳しくされていたのを見て育ったことがチックの原因なのだろうか。厳格で偉大な祖父のようになることを期待されたが学者肌で、ミニマムなことに神秘と宇宙を感じ、周りに心を閉ざす一人の傷つきやすい人間が、映画のその向こうに浮き上がって見えた。

よその国の話に感じたが、タブーとされる天皇を政治や思想、史実と切り離し、一人の苦悩する人間として描いている。日本ではできないなと思った。

音楽も、とくにエンドロールの曲が大河ドラマみたいで良かった。

皇居の隠れ家のシーンでは常時モールス信号みたいな電子音/機械音が入っていたが、あれはなんだろう。

観る前は反発心が湧くかなと思ったが、観て良かった。日本についての戦争の映画はいろいろな角度から観たい。史実や事実の追求にはこだわらず、人の見方はいろいろであるから。自分なりの考えを膨らませたい。

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