ゴト

フィツカラルドのゴトのレビュー・感想・評価

フィツカラルド(1982年製作の映画)
4.1
思い返してみると、ヘルツォークの映画はプリミティブなもの対するこだわりを感じる作品が多いように思う。「アギーレ神の怒り」にも先住民族が出てくるし、洞窟絵画のドキュメンタリーも撮ってるし。それが、社会が成熟していく過程で人間が忘れてしまったものへの回帰、みたいな理由だとしたら「カスパーハウザーの謎」も入ってくるかもね。あれも世間や社会を全く知らない男の話だし。

発達した文明社会の人間が、土着民の支配地域に軽々に足を踏み入れ、手痛いしっぺ返しを食らうなんてのは、昔からホラー映画やなんかで見るけど、この映画も近いところが少しある。話の終盤に向けての流れなんかは特にそれを感じさせるわけだけど、大きく違うのはこのフィツカラルドという男には、イキトスにオペラ座を建てるという強い信念があった。

アマゾンを遡っていくと、どこからともなく不穏な打楽器のリズムが聞こえてくる。密林に溶け込み姿を現さない先住民族たちが鳴らすその音に対抗するかのように、船上のフィツカラルドはカルーソーのオペラを蓄音器から流す。

このシーンを観ていると、フィツカラルドVS先住民族、あるいは芸術文化 VS土着の信仰という構図が見えてくる。そして、当初望んでいた形とは違うにせよ、目的を達成したのだから、この対決はフィツカラルドに軍配が上がったと言える。

何より圧巻なのは、言うまでもなく山越えのシーン。本当に大型船一隻をマンパワーで山の上まで引っ張っていくわけだから物凄い。ピラミッドというか、王墓建設を思わせる荘厳さをも感じる。そう考えると、冒頭に書いたようなこだわりを持って監督も演出をしたのかなと思ってしまう。

二つの大きな力が正しくアマゾンの急流のようにぶつかり、うねり、混ぜ合わさっていく映画。
ゴト

ゴト