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緑の光線のhasseのレビュー・感想・評価

緑の光線(1986年製作の映画)
4.5
○「心という心が燃える時よ、来い」(ランボー)

「喜劇と格言劇」五作目。女性の恋愛観を越えて現代人の孤独を克明に描いた傑作。
友人に旅行をキャンセルされ、一人でバカンスを過ごす羽目になった孤独な女性が主人公。
クリスマスやバカンスをひとりぼっちで過ごすのは欧米では文化的にあり得ないことで、主人公デルフィーヌは心配する友人に誘われシェルブールへ行く。
そこからデルフィーヌは孤独をこじらせパリへ戻り、今度は山に行くも自分が惨めになりパリへ戻り、三度目の正直でピアリッツへ行く。

孤独から逃れようとすればするほどかえって孤独が強く意識されていく人物造形は現代人の克明なモデルといえる。彼女の孤独の正体は、恋人がいないことではなく、自分でも自分のことがわからない、自分にどんな価値があるのかわからないという苦悩だ。自分で自分をわかってやれない。相手からどう思われてるのかわからない。だから友人らやその気のいい仲間らに囲まれていても、どこまでいっても孤独のままなのだ。うわべだけの関係より心と心で人と繋がりたい、でもそれをなし得る対人スキルも出会いもない、だから結局孤独のまま時が過ぎてゆく…。

ピアリッツで老婦人らが、ヴェルヌ作『緑の光線』の話をしていて、実際に緑の光線を見ると自分や相手の考えが分かるようになるという。それにデルフィーヌに一縷の希望を見出だす。そして、たまたま駅で知り合った男と漁村の外れの丘で夕暮れを待って、緑の光線を目撃する至高のラストシーンへとつながっていく。

この映画はデルフィーヌが場所を移動しまくるので、画がコロコロ変わるのが飽きさせない。そして基本ずっとバカンスの場面だから、画が日光に満ちていて明るく、のんびりとして楽しそうでとてもいい。そんな牧歌的ショットを重ねていくうちに主人公だけ鬱々としていくというギャップもめちゃくちゃ面白い。

主人公を演じたのはマリー・リヴィエール、『飛行士の妻』ではパイロットにフラれる女性役だった。細面で幸薄めな顔つきが、今回の役柄にハマっている。
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