りょう

ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌のりょうのレビュー・感想・評価

5.0
 ジョン・ウー監督がハリウッドに進出する直前に香港で制作した最後の作品です。最後だから香港でできることを全部やったという雰囲気が満々でした。リアルタイムで観ていましたが、VHSビデオでも繰りかえし観ていたので、ほぼ字幕なしで大丈夫です。あまり物語が重視されていないので、登場人物の会話を理解できなくても作品の価値はそのままという事情もあります。
 ジョン・ウー×チョウ・ユンファの作品は、1986年の「男たちの挽歌」と1989年の「狼/男たちの挽歌・最終章」が傑作ですが、スタイルを重視している2作と比較すると、この作品は銃撃戦の規模とリアリティがハンパないです。2丁拳銃のチョウ・ユンファも健在ですが、とにかく大勢の敵を殺傷するためのスタイルなので、かなり実戦的で泥臭いです。彼が中盤以降で愛用するショットガンの威力も必見です。
 トニー・レオンとアンソニー・ウォンというキャストや潜入捜査官という設定では、2002年の「インファナル・アフェア」を連想しますが、物語とアクションシーンの比重が別次元なので、まったく類似性がありません。
 大規模な銃撃戦は、主に冒頭の飲茶屋と中盤の武器倉庫の場面があって、ここまででも十分に満足できるレベルですが、舞台が病院になってからの後半ほぼ1時間にわたる設定が規格外です。廊下をすすむチョウ・ユンファとトニー・レオンが敵を次々と銃撃する長回しのシーンとか、最後の爆弾の炎で火炎放射機が使用されている演出とか、圧巻の場面の連続です。あいかわらずスローモーションを多用しつつ、フィジカルなスピード感のあるシーンも印象的で、それらを何発か被弾している登場人物が繰りひろげているというすさまじさもあります。
 もしかしたら役名があるのかもしれませんが、ジョニーの直属の部下で武装集団のリーダーを演じていたフィリップ・コクのアクションと存在感がすごいです。このキャラがこれでおしまいというのはもったいないです。最近ではジョン・ウィックのような万能タイプの暗殺者なのかもしれません。
 劇伴は、当時の香港映画にしては現代的な要素が印象的で、サントラとしても秀作です。冒頭の飲茶屋の一般客とか後半の病院の患者やスタッフが次々と銃撃される残忍シーンは、当時の香港で許容されていた描写なので、おそらく現在はこのレベルの映像を作品にすることは困難だと思います。それでなくても、VFXなしのアクションシーンの規模とクオリティ、ここまで豪華なキャストなども再現できないはずなので、まさに永久不滅の名作です。
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