なんとも感慨深く、胸に迫る美事な文藝映画。
友情って素敵だなぁ。母子の愛情って素敵だなぁ。そしてなんと母親が美しいことか!母親役の滝花久子(田坂監督の奥さん)の控えめな演技とその憂いを含んだ表情には静の美がある。母子のシーンは、時に切なくて切なくて胸が苦しくなった。
稲葉屋の井染は、吾一の母に情があるから常に優しく見守っているのか、それともこの母子に対する人情からくる深切なのか。
学校の先生が「吾一」という名前について語るシーンは名場面だった。
「吾一か、実に良い名前だ。吾一、お前は自分の名前の意味を考えたことがあるか。吾一というのは”我は一人なり”世界に何億の人間がいるかもしれないが、愛川吾一というものは、世界中にたった一人しかいないのだ。(省略)たった一人しかいない自分をたった一度しかない一生を真実(ほんとう)に活かさなかったら、人間生まれてきた甲斐がないじゃないか。これからのお前の人生は、お前のこの二つの手で切り拓いていかねばならない」
誰もが純粋で清らかな美しい涙で心が洗われるであろう、そんな作品だ。