emily

フレンチなしあわせのみつけ方のemilyのレビュー・感想・評価

3.3
仲の良い3人の中年男性。ヴァンサンには美しくて優しい妻ガブリエルと息子がいて、幸せな日々と過ごしている。一方ジョルジュは夫婦喧嘩が絶えない。唯一の独身フレッドは女性にもてもてで、とっかえひっかえ女性と遊んでいた。二人はそんなフレッドをうらやましく思い、フレッドは誰かが家に居る事をうらやましく思っていた。妻は妻達でそれぞれ悩みがあり、ガブリエルはレコード店でCDを試聴していた時、隣で同じ曲を聴いていた男性(ジョニー・デップ)が気になり後を追ってしまう。

パリを舞台に軽快なリズムと普遍的な夫婦の悩み、ないものねだりの人間の皮肉を交わらせながら、radioheadのcreepの世界観と、ジョニー・デップの存在感が一気に物語をかっさらっていく。どこにでもある夫婦の日常をしっかり描き、そこに突如現れるジョニー・デップ。その存在感、その横顔、ガブリエル演じるシャルロット・ゲンズブールと同じように観客もその姿に、その唇と唇の間からこぼれる吐息に一気に引き込まれてしまうのだ。二人のヘッドホンから同じ音楽が流れる、たったそれだけの事。でも人生を変えるのにその瞬間は充分である。

本作はシャルロットの実息子とパートナーのイヴァン・アタルと共に家族を演じるという生活感ぷんぷんなのも納得である。

夫婦喧嘩をしても仲が良い夫婦もいるし、喧嘩もしなくても、全然内側ではうまくいっていない夫婦もいる。夫婦のことは夫婦にしかわからない。ヴァンサン達は水や液体をかけあってじゃれあうことで保ってるらしい。その絵は非常に幻想的で、非リアルであるが、共有できる感情表現の方法だと捉えると、こういったものは夫婦間の間に必要である。ガブリエルは夫の浮気を知りながらもそれを黙認している。ただ時が静まるのを待っている。しかし黙ってる事は男に無言の威圧感を与える。ヴァンサンが妻の煙草を吸う細いラインの後ろ姿をずっと眺めてるシーンが印象的である。言葉に出して責め立てて喧嘩をしたほうが良い時もあるし、彼女のように時がたつのをただ黙って待つ法が効果的な場合もある。

とにかく夫婦の形なんて夫婦の数だけ異なり、正しい形なんてものはない。ここが自分の居場所なんだと思える場所、喧嘩しても浮気してもやはり自分には帰る場所はここだって思える場所が夫婦で家族なんだと思う。浮気を肯定している訳ではないが、その気持ちが分からない訳ではない。
運命的な男と再会しエレベーターの密室での一瞬の時間がガブリエルには永遠の時間のように夜になり日付まで変わっていく。心にほんの少しのうるおいをチャージできれば、また現実に戻っていけるのだ。浮気をしないのは勇気がないからではない。何をいってもやはり自分の心が許さないからなのだ。

現実の結婚生活はため息が出ちゃうことばかりだけど、それでもそこが自分の居場所だ。ほかの人に気持ちが向いて、夫のように浮気してそうして大事なものに気が付く場合もある。妄想だけで留まればよいけど、それが浮気に発展してしまうと、当然離婚になってしまう場合もある。またそれも人生。近くにあるものほど当たり前になって見えなくなるのだ。幸せとはいつも手を伸ばせばそこにあるもの。見つける必要なんてないのだ。
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