あきらっち

ブロークバック・マウンテンのあきらっちのレビュー・感想・評価

5.0
異性であろうと、同性であろうと、
叶わぬ恋の切なさに、違いなんて、きっとない。

”届かぬ心も 抱きしめて そばにいる
眠れぬ想いは あなただけじゃない
これからもずっと あなたを探してる“

これは中西圭三さんが唄う名曲“眠れぬ想い”のワンフレーズだ。異性であろうと同性であろうと、普遍的な愛を歌うこの歌詞の世界観に、この映画の根底にある切ない愛が私の中でシンクロした。


1960年代のアメリカ田舎街。
同性愛に対する認知どころか命すら危うい、そんな時代。

出逢ってしまったあの日。

忘れたかった。
忘れられる筈だった…

いっそ出逢わなければよかった。

理屈じゃない人の心は、
理性で片付けられる筈もない。

いつも不安に怯え、心の入れ物に想いを閉じ込め蓋をした。
本当は張り裂けそうな胸の痛み…
自分を偽り過ごす途方もない毎日。
不器用で閉ざした心は、空虚で誰も寄せ付けない。

それはまるで、何人も寄せ付けない凍てつく冬山とダブって思えた。


約束の場所。

手が届きそうな程に低い空。
まるで空まで届けとばかりに山肌を登っていく羊達。

神々しいまでに雄大なあの場所は、見栄も嘘も寄せ付けない“ありのまま”の世界。
何もかも削ぎ落とした剥き出しの心を受け入れる真実の場所。

”毎日こんなふうに暮らせるんだぞ“
理想を目の前にしてなお、心と裏腹な態度や、踏み出せない心の葛藤が痛々しい。

満たされぬ心と身体。
行き着く先のない我慢では、いつか限界が訪れる…

突然の便りに言葉もない。

”何も実現しなかった“
失って初めて気付いた、あの日から変わることのなかった深い深い想い。

“あいつだけが俺の友達だった”

もう心の入れ物に蓋はない。

Jack, I swear・・・


※ラストシーンに込められた想いやヒースの表情に、観賞後しばらく経つが、ヒリヒリとした余韻は冷めず、今も未だ心はざわついている。

ラストシーンに流れる哀愁を帯びたギターの音色やエンドロールの歌とともに、

”届かぬ心も 抱きしめて そばにいる
このままあなたを 誰にも渡さない“

中西圭三の切ないバラードが頭の中をリフレインして止まらない…


※同性愛を扱った映画は、マイノリティーの心の叫びを描いたメッセージ性が強く重たい内容のものが多い印象がある。それ故、観るに当たってはそれなりの心構えが必要で、なかなか好んで観れるジャンルではなく、名作とは聞きつつも今まで本作も観るのを先伸ばしにして来た。
心のこもったフォローワーさんのレビューに惹かれ、直ぐにでも観たい衝動を抑えられず観賞。

単なる同性愛の話として括られるものではなく、禁断であったり叶わぬ恋といった、普遍的で切なすぎる程の愛に通じる作品だと、私には思えた。

※ヒースとジェイクの圧巻の演技。
ヒースの死が残念過ぎる。
遺された映画の中で彼の姿を観る度に、きっと誰もがその想いを痛感するに違いない。円熟味を増した彼の演技はどれほどのものだっただろうか…
彼らを取り巻くキャストの面々も、ストーリーも音楽も映像も、この映画の世界観を見事に表現していて、名作である意味を知った。

あの山は今もきっと変わらないのだろう。
雄大な自然の美しさに想いを馳せる。
あきらっち

あきらっち