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ブロークバック・マウンテンのkomoのレビュー・感想・評価

4.5
夏季限定の労働者として、ワイオミング州のブロークバック・マウンテンにジャック(ジェイク・ギレンホール)とイニス(ヒース・レジャー)という2人の男が雇われた。
過酷な環境で助け合う中、惹かれあった2人は肉体関係を持つようになる。
夏が終わり山を去った彼らは、それぞれ女性と結婚し家庭に恵まれる。しかしブロークバックでの日々が忘れられず、時折人目を忍んで愛を交わすようになっていた。



なぜ愛する者へ拳を振りかざさなければならなかったのか。
20年にも渡る逢の瀬は、多くの苦しみを孕んでいました。会ってしまえば、ままならない現実に押し潰され、いがみ合ってしまう。
それでも互いを求め続けた2人。
一見すると社交的で楽観的だが繊細な心を抱えるジャックと、寡黙で不器用で、しかし激情を秘めているイニス。
イニスは幼い頃、惨殺された同性愛者の亡骸を見てしまったことがあり、ジャックとの交際に関して常に後ろ向きです。そして妻や子どもたちとの関係が脅かされることを何よりも恐れています。
一方ジャックは、家庭を失いたくない思いはイニスと共通しているものの、イニスに会えなくなることを何よりも恐れていました。
どちらも互いを想う感情は大きいのに、こうした恐れの齟齬が隙間を生んでいます。

そして女としては奥さんの気持ちもわかってしまうから辛い。不倫や同性愛の件を置いておいても、夫が自分に嘘を吐いて出かけるのって、女性としてはそれだけでも苦しいと思う。
どこまでも辛い話だけれど、情熱的なジェイクとヒースに会いたくなって度々観てしまいます。
男同士だから切ないとか報われない愛だから感動するとかではなく、人と人のすれ違いがただただ胸に刺さります。

2人の逢の瀬の時、いつも雄大な自然の中で戯れていました。
しかし2人が本当の意味で互いを愛し合い、自分自身を赦すことができた環境は、ブロークバックマウンテンただひとつだったのだと思います。
自然の世界に五感を傾け、体で契りを交わす肉体的な映画ですが、ブロークバックマウンテンという舞台は心象風景にも近い趣きがありました。
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