すず

シンプルメンのすずのレビュー・感想・評価

シンプルメン(1992年製作の映画)
4.0
元大リーガーで過激派思想のテロ容疑者であり 逃亡中の父親を、兄弟2人で探しに行くという何とも突飛なストーリーだけど(兄のビル《ロバート•ジョン•バーク》も犯罪者だし)、淡々と軽妙な会話劇で導かれる本作のメインテーマは〝男と女〟についての世俗的な物語という、ハル•ハートリーはホントに不思議な脚本と作風の監督。

会話劇が独特の空気感を創り上げていてほんとに面白い。ある何気ない会話が伏線になって、ごく自然とそれを回収するような会話があったり、小気味いいテンポと知的でウィットなやり取りに引き込まれるし、それがニンマリと笑える。

ハル•ハートリーの映画はまだ数本しか観てないけど、不思議な雰囲気の美女がいつも印象に残る。彼の作品の基調は紛れもない会話劇だけど、この独特で渇いた空気感も好みだ。

Sonic Youthの『Kool Thing』という巧妙な選曲で、ダサかわいくダンスするエリナにつられて皆んなで踊ってるシーンがハッピーで最高。とってつけたような、如何にも狙ったようなシーンだけど、まんまとやられる笑。これに続く会話も計算済みのようで。総じて絶妙にクールでスタイリッシュという、ハル•ハートリーの作品は全編に一貫してドライな空気とウィットな笑いを織り成したスタイリッシュさが貫かれている。

監督の態度や趣向の根底にあるのはロックなテンションなのに、ここまで縦ノリにならない、淡然とスマートでおしゃれな雰囲気の作風もハル•ハートリー独特の世界観。そして突飛なドラマ設定なのに、どうしてここまでシンプルな希望へと着地出来るんだろう。ケイトの隣でとある警官が痛いほどに現実的な言葉で語りかけるんだけど、眼前に示されるものとの対比によって、よりロマンチックな余韻を残すラストはとてもじゃないけど嫌いじゃない。ビルは本当に人生の目的を得たらしい。それが例え不確実なひとときの真実であったとしても、嘘と真実と男と女の普遍的な物語であるのならば、それで十分にロマンチックな瞬間だった。

ふと観てて思ったんだけど、ギャロが『バッファロー’66』を撮る際に、本作から割とアイディアを拝借したかもしれない気がする。笑
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