イワシ

アウトローのイワシのレビュー・感想・評価

アウトロー(1976年製作の映画)
4.5
再見。イーストウッドの顔に縦の傷を走らせるビル・マッキニーのサーベルを振り下ろす垂直運動は、イーストウッドにトラウマ的に引き継がれ主に地面や死体に唾を吐くという行為として反復される。前半の視線の合わせるときの高低差もこの傷の垂直性のヴァリアントだろう。

穴を掘るときと十字架を立てるシーンの仰角がビル・マッキニーのサーベルの運動を反復しているかのようだが、そのことに耐えられなかったかのように真っ直ぐ立てた十字架を倒してしまうイーストウッド。埋葬の失敗はこの後も描かれ、追手のみならず味方の死体もイーストウッドは埋葬しない/できない。

垂直的なトラウマに取り憑かれたイーストウッドがそこから解放されるきっかけがウィル・サンプソンとの和平交渉シーン。ここで両者は馬に跨ったまま同じ高さで視線を交わし、自らつけた掌の傷を合わせて誓う。イーストウッドの顔面の傷と正確に対応する手の傷は交わることで倒された十字架も反映する。

チーフ・ダン・ジョージと別れの言葉を交わす際も視線は同じ高さにある。トラウマから解放された感を漂わせた直後にビル・マッキニー率いる北軍の追跡隊と川向かいに対峙する。コマンチ族との対峙の反復/変奏かつ冒頭の再来を予感させるがマッキニーを優位にしていた垂直的な位置関係は解消されてる。

近距離銃撃戦の結果、落馬するイーストウッドだが冒頭とは反対に垂直性を味方につけるように地面に倒れたまま追跡隊を殺しまくる。振り下ろされたサーベルの垂直運動はすっかり反転し、いまでは敵の方がみずから死を演じながらひたすら落下運動を続ける。

逃走したビル・マッキニーの血がついた柱は縦に罅割れていて、瞬時にイーストウッドの顔の傷を想起させる。生々しいレオーネ的とも言えるクローズアップの後サーベルを引き抜いた手を掴み、そのまま下腹部を突き刺す。空の拳銃の引き金を何度も引くが、それでは不十分かのようにあくまで垂直的に殺す。

ジョン・ヴァーノンとの最後の会話が感動的なのはウィル・サンプソンとの対等な視線の切り返しを反復しているから。「戦争は終わった」と告げた直後、靴に滴り落ちる血(垂直性!)を見てイーストウッドに「そうだろう?」と問いかけるヴァーノンの眼差しは傷の快癒を告げているかのよう。
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