Melko

いわさきちひろ 〜27歳の旅立ち〜のMelkoのレビュー・感想・評価

3.6
「夢を与えてくださった大人でした」

「まだ死ねない。もっと絵を描きたい」

絵本は大好きだけど、いわさきちひろの絵は子供の頃は苦手だった。
子供の目が全部すごく切なくて悲しそうで。全く楽しそうにイキイキとは見えなかったから。ちょっと怖くすらあった。

でも今ならわかる気がする。
あの戦争と混乱の時代を生きた人間だからこそ、子供一人一人の瞳に込めた想いを感じ、
その生い立ちを知ったからこそ、慈愛に満ちた子供を捉える眼差しについて知れた。

なかなかに波乱の人生、どうしても好きになれなかった初婚の相手は首吊り自殺
東京大空襲で実家は焼け落ちたものの、生き残り、疎開
画家になりたい一心で、アラサーで上京してからの貧しい暮らしに、画家仲間から理解してもらえない自身の画風、バツイチで7歳年下と結婚するも旦那の両親からは猛反対、2人だけの慎ましい結婚式
弁護士目指す旦那の代わりに家計を支えるも、貧しさから息子を実家に預け…

その心には、人の生き死にと、戦争の影がチラつく
失うものがない覚悟の27歳の自画像が殺伐として、恐ろしい

元来子供好きだったんだな
2回目の結婚で子宝に恵まれてよかった
芸術家とはいえ、おそらく素顔はどこにでもいるお母さん
芸術は爆発だタイプの人では無さそう
負けん気強いというよりも、冬をひたすら耐え忍び、春を待つ人 という印象

絵を描くことが何よりも好きで、自分の描いた絵に誇りと思いやりを持ち、画家の著作権の為に闘った人
「自分の作品に何一つ満足いってない」と言う、昨日見たエッシャーとはまた全然違う

アウトラインのない、にじみ絵
細やかな感受性と、大胆かつ繊細な表現が持ち味
才能ある無しよりも、
絵を描くことが大好き
という、一点突破で「絵を描くこと」を仕事にした人
それが生活の為 となると苦しくなるんだな
描いてるものは、「描きたいもの」ではないんだもの

上手い下手ではなくて、それを見て人が何かを感じたら、それは芸術
ちひろは絵本画家であり、絵本作家
いつの時代も、誰かの才能を頭ごなしに否定したりせず、潰さず、伸ばそうとする人は、いる

「あなたは絵本バカなのよ」
バカなんだから、とにかく描くしかない

夫も子供も良き理解者であってくれた

映画監督や物語作家のことを知ってしまうと作品を穿った目で見てしまうからあまり知りたくないが、いわさきちひろに関しては、知ってよかったと思う
あの絵の背景にある、色々な想いや思い出について知れたから
1枚でたくさんの情報を伝えてくれる絵
それがまとまり、物語となる絵本
だから絵本は好き
Melko

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